小松庸人 一等書記官:「ステートメント、選挙、人との関係」

令和5年2月13日

はじめに

2020年7月末から当代表部経済部で勤務しております。着任当時は周りに新型コロナで亡くなる外交官や国連職員の方がいたり、市街地、国連本部等が閑散としていたりしていましたが、今では、ハイブリッド形式会合を含め、国連本部等で世界中の多くの人々と臨場感のあるやり取りを行う機会が増えました。国連本部会議場での世界中の人々の熱気や拍手は、在宅勤務では味わえないものの一つです。当地でこれまで色々な業務に携わらせていただいておりますが、今回は、(1)国連場裏でのステートメント、(2)選挙、(3)人との関係の3点についてご紹介したいと思います。
2019年9月国連本部前の様子
2020年9月国連本部前の様子

ステートメント

第一に、代表部の仕事の一つとして、国連場裏での「声」に相当するステートメントの作成や日本政府を代表しての発言があります。ステートメント案を起案する際は、国際連合憲章前文の冒頭にある「WE THE PEOPLES OF THE UNITED NATIONS」の一人として、「国際機関を用いる」(同前文では「employ international machinery」)気持ちで、日本国として、日本政府として、日本人として、人間として、真に伝えたいメッセージは何か、を考えるようにしています。国連そのものは、190以上の国連加盟国が集まる他にはないプラットフォームではありますが、あくまで国連加盟国等が集まる場や手段であると理解しています。
 
また、国連機関は当地の国連本部だけで成り立っているのではなく、発言はUNTV等の媒体で世界中に放映される場合もあることから、ステートメントを起案する際には、特にどこの誰に向けるものかも強く意識するようにしています。特に、人間の安全保障の理念や持続可能な開発目標(SDGs)にもある「誰も取り残されない」や「人間中心」といった視点は忘れないようにしています。また、国連の枠外に置かれている地球上の地域、ステークホルダーの「ステーク」すら手にしていない人々、国連に声が届いていない又は届けることのできない人々、そしてユース等のみならず未だ生まれぬ「将来世代」もできるだけ意識するようにしています。
 
国連場裏では「危機」を訴える表現を耳にする機会が多いのですが、皆さんなら現在の「危機」をどのように表現、形容されますか。今すぐ目の前にある危機といった表現の他に、近年は、「overlapping and interlinked crisis」、「triple planetary crisis」、「multiple and intersecting crises」といったように、危機の相互関連性や複数形の「危機」が強調されることが多いと感じます。例えば、新型コロナ、気候変動、物価やエネルギー価格の上昇、教育等について、他国等のステートメントから、身近な変化に着目しかつ聞き手の肌感覚に訴える表現が聞こえてきた際には、自然と耳が傾き、特に参考になります。また、「世界では、7人に1人しか安全な状況と感じていない。」、「世界終末時計の人類滅亡までの残り時間が『90秒』と過去最短に。」といったように、根拠のあるデータや数字を用いた表現も、分かりやすく説得力があると感じます。
 
ステートメント作成後には国連内で発言の機会があります。以前、国連総会議場での発言の様子をUNTVで見た子供から、「父さん、原稿見ながら発言しているね。前を向いて堂々と発言した方がもっと良くなるよ。」と言われたことがあります。それ以来、どこかで誰かに見られているという意識で、可能な限り前を見て発言するよう心がけています。
 
2020年 国連総会議場での発言時
2022年 国連総会議場での発言時

選挙

第二に、国連場裏における選挙についてもご紹介したいと思います。着任最初の仕事の一つとして、2020年9月14日に行われた国連統計委員会委員国選挙がありました。同選挙は、アジア太平洋・グループ2枠に、我が国の他、サモア、中国、フィリピンの4か国が立候補する競争選挙(どの国がどこへ投票したか明らかにされない秘密投票)で、新型コロナの影響もあり、約1週間前になって投票日が急遽発表されたという背景がありました。着任直後で各国代表部の選挙担当の顔や連絡先も分からず、人に会って直接要請するのも新型コロナの影響で難しいという状況でしたが、前任者等の地道な努力の積み重ねに加え、大使を始めとする当代表部関係者による昼夜問わずの短期間の集中的な働きかけ等によって、結果として当選することができました。最後の最後まで手を抜かずに尽力し、日本が当選したとの報に接した際、涙が出るくらい嬉しかったことは今でも忘れられません。
 
当地では、一年中、多くの国連関連選挙や当地以外で行われる選挙を含め様々な形での選挙関連活動が頻繁に行われています。多くの各国代表部には選挙担当官が配置されています。どんなに規模の小さな公館でも大きな公館でも同じ1票を有しており(但し、憲章19条に基づき国連への分担金滞納未払いの国が国連総会での投票権を喪失するケースもある。)、選挙担当官を大使が兼ねる国もあれば書記官が担う国もあります。選挙担当官の人柄や言動が他国の投票態度に影響を与えることもあります。
 
2022年国連経済社会理事会理事国選挙(任期:2023年~2025年。秘密投票)について、東欧グループ1枠をロシアと北マケドニアが争っており、昨年6月10日以降、6月16日、7月11日、9月2日、12月20日にすでに22回の選挙が行われていますが、今も決着がついていません。国連本部での選挙が行われる度に、各地域グループから非立候補国の関係者を数名集めて構成される「テラー」と呼ばれる立会人がいます。本選挙について、日本はこれまで22回の投票全てに「テラー」として参加していますが、立会人に敬意を表するとともに、こうした陰ながらの貢献は必ずやどこかで誰かが見ているものと信じます。

人との関係

最後に、代表部の仕事に限らずですが、人との関係についてご紹介したいと思います。前述の2020年9月の選挙で、ある国の選挙担当官から、「今回はすでに他国と選挙協力の約束を交わしてしまったので貴国には投票できない。次回の本選挙又は別の選挙では貴国と協力したい。秘密投票なので言わないこともできるが、貴国や貴兄とはこれからも良い関係を築いていきたいので、正直に申し上げることにした。」と言われたことがあります。票をいただけないと言われたのは残念でしたが、事前(直前ではない)かつ正直に教えてくれたことで、次回はこの人を信じて選挙協力を提案してみようという気持ちになりました。選挙は結果が出ますが、その先を考えた時、人との関係や誠実さも重要であることを学びました。
 
自ら進んで人と人との媒介となったり、他国の代表部関係者や国連職員から頼まれて人を紹介、仲介したりすることがあります。例えば、ある国や人が主催したレセプション等で人々と出会い、その参加者と仲良くなった場合、きっかけを与えてくれたその国や招待してくれた人に感謝します。国連には、発言や出会いの場を提供するプラットフォームという側面もあります。また、特定のテーマや議題について議論したり、仲間づくりを進めたりする国連加盟国主導のフレンズグループもあります。
 
(人間の安全保障に関するフレンズグループ会合)
第4回人間の安全保障フレンズ会合の開催について | 国際連合(国連)日本政府代表部 (emb-japan.go.jp)
(水フレンズグループ会合)
水フレンズグループ会合における石兼大使ステートメント | 国際連合(国連)日本政府代表部 (emb-japan.go.jp)
2022年4月 教育フレンズグループ会合(議長国:日本)の様子
 
日々、様々な国の外交官から、新たな発見や良い刺激をいただいています。日本が在外公館を置いておらず近隣の国に所在する日本大使館が兼轄している国の外交官と話すこともありますが、当地であれば同じ市内ですぐに会うことができます。最近当地で出会ったアフリカや中南米カリブの外交官からは、「地元では、豊かな人とは、金持ちではなく、健康な人という意味で使われてるよ。日本人の平均健康寿命は長いね。」、「日本には『IKIGAI』といった言葉もあるよね。ところで、一番お勧めのラーメン屋、アニメ、歌を教えてくれないか。」と言われ、すぐに意気投合しました。久しく実りある人との関係を築くためにも、自らが幅広く人を「介(たす)け」、人を信じ、一人でも多くの人々から信頼してもらえるようになりたいと願い、これからも当地での一日一日を大切にしていきたいと思います。
 

おわりに

以上の声が、当代表部を離任された方々、着任前から気にかけていただいている方々への感謝を込めた現状報告とともに、ユースの方々やこれから生まれてくる「将来世代」の方々へのご参考又は何らかのメッセージになればと切に願っております。最後に、この場を借りて、日頃から当代表部の仕事を支えてくださっている現地職員を始め館員、本省、国連職員、そして家族や友人の皆様に心から感謝をお伝えしたいと思います。