5月21日、ニューヨークのジャパン・ソサエティーにて、日本政府代表部が,ポーランド、トルコ両代表部及びスチムソン・センター(ワシントンDCに所在する有力シンクタンクの一つ)と協力し、制裁及び軍縮・不拡散に関する半日のセミナーを開催しました。
この会合は、昨年5月及び12月に日本政府代表部が開催した同様のセミナーに引き続き、今年第三回目を開催することとしたものです(5月及び12月のセミナーの概要はこちら:5月、12月)。前回のセミナーが制裁及び軍縮・不拡散の全般的な課題を取り上げたのに対し、今回は、特に通常兵器の不拡散について議論の主眼を置いた会合となりました。軍縮・不拡散の分野では大量破壊兵器に注目が集まりがちですが、本年は7月には武器貿易条約(ATT)交渉会議、8月には小型武器行動計画(POA)検討会議という大きな会議が開催されるなど、通常兵器分野について、国連において加盟国の関心が高まっていることもあり、今回のセミナー開催は非常に時機にかなったものとなりました。
会場は終始満席で、国連事務局(政務局及び軍縮部)関係者、1540委員会(大量破壊兵器の不拡散に関する委員会)、1718委員会(北朝鮮制裁委員会)及び1737委員会(イラン制裁委員会)の業務を補佐する専門家パネルのメンバー、並びに米国内のシンクタンクの専門家、企業関係者、ジャーナリスト及び44カ国以上の各国政府代表部の大使及び担当者等、合計約100名が参加し、活発な意見交換を行いました(プログラム参照)。最近の中東やアフリカにおける兵器の拡散がこうした地域の紛争を長期化させている点につき国際社会の関心が集まっていることも相まって、会場での議論は活気に溢れるものとなりました。トルコとポーランドという国連における軍縮・不拡散の分野に積極的に関与している国と、日本が会合を共催したことも、多くの出席者を得る一因になったとも言えます。国連加盟国の出席者からの意見に加え、幅広い分野の深い知識を有するパネリストの出席を得ることにより、分野横断的かつ示唆に富む議論を行うことが可能となりましたが、こうした議論は通常の国連の会合でもあまり見られないものとも言えます。会議の参加者からも、通常兵器の管理に関する成果や問題について活発な議論を行う貴重な機会が得られたと、この会合を高く評価する声が多く聞かれました。
会議冒頭、主催者である西田恒夫大使に加え、ポーランド及びトルコ大使が挨拶を行ったほか、スチムソン・センター会長が開会の挨拶を行いました。引き続き第一セッションでは、通常兵器の専門家,企業及び報道関係者による通常兵器の取引及びその資金の流通経路の現状について説明し、出席者の間で意見交換が行われました。専門家は、小型武器の拡散が、おびただしい数の人命の損失を引き起こすだけではなく、伝統的に機能してきた社会を破壊している旨発言しました。専門家の中には、武器の供給及び需要者の関係が変容しつつあり、多くの国が自国の武器産業の成長に力を入れ、アジアやラテン・アメリカ等の地域が武器輸出国として成長してきている中、こうした国々自身が供給者となりつつある旨述べる者もいました。また、また大量な余剰軍事物資の発生が、無秩序な武器取引を生み出す要因となり得ることも指摘されました。その一方で、複数の専門家は、IT技術の普及と武器貿易条約(ATT)締結の機運の高まりも受け、今後通常兵器の国際取引に関し一定の透明性が確保され、情報収集も向上されるのではないかという期待を示しました。会合の出席者は引き続いて、違法な武器取引をどのようにすれば抑制できるかについて議論しました。専門家の中には、武器取引の仲介業者に関し、国内法上の、あるいは今度のATTにも規定において、その定義を明確にすることが、有効な規制を行う上で重要であると述べました。また、パネリストからは、不法な武器取引に関連した資金の流れを規制する上でも、不拡散分野の専門家と企業関係者、とくに金融関係者との間でのより日常的かつ実質的な対話が重要である旨指摘されました。とくに、企業関係者が自分の顧客の取引の中で不審なものを特定できるようにすることの重要性が強調されました。
第二セッションでは、国連関係者、研究者及びNGO関係者による、通常兵器の拡散を防止する現行の国際的又は地域的取組み等について議論が行われました。パネリストの一人は、通常兵器の軍備管理と開発の問題の議論に存在する断絶を結びつけることが重要である旨指摘し、そのための具体的な取り組みについて紹介しました。不法武器の取引に関する国家レベルでの取り組みを行うだけでなく、武器を使用した暴力の拡散を防止するための、より地域社会に根ざした努力が必要であることが力説されました。また、多国間のルール作りに関しては、多くの出席者が、ATTは、条約の対象範囲及び適用基準に関し高水準で真に実効的なものとすべきだと強調する声が聞かれました。その一方で、パネルからは、同条約が現行の枠組みを補完するとは必ずしも限らず、既存の有効な枠組みをかえって弱体化させるおそれもあるとの慎重な見方も示されました。パネリスト及び出席者は、全ての国が受け入れられることができ、強力な内容を持つ、通常兵器の拡散に十分対応可能な条約を作ることが難しいことを改めて認識しました。同時に、今回のセッションでの議論は、主席者にとって、この分野における国際的な努力を一層増大する必要があることを再確認させる機会となりました。
今回の会合の基調講演は、現在AP通信の記者で、ピューリッツァー賞を受賞したロサンゼルス・タイムズ紙報道部のメンバーでもあった、スティーブン・ブラウン(Stephen Braun)氏が行いました。ブラウン氏は、不法武器の取引がいかに世界中の紛争を激化させてきたかにつき、(国際的に知られた武器商人である)ヴィクトール・ブウトの事件を紹介しつつ、説明しました。ブラウン氏はまた、武器商人がどのようにして法の網を潜り抜けつつ、武器取引を行うことができたのかについても詳しく説明がなされました。ブラウン氏によれば、冷戦終結後、大国がイデオロギー闘争の場と見なさなくなった国々におけるプレゼンスを減少させた結果、武器商人がそうした国々に武器を持ち込むことができたことができるようになりました。ブラウン氏は、武器密輸を取り締まるためにも、各国政府はより厳格な法的枠組みの構築に注力すべきと強調しました。
会合の最後に、共催者である三カ国の大使が閉会の挨拶を行いました。西田大使からは、出席者の積極的な議論への参加に対し謝意を述べるとともに、不拡散分野において、日本や近隣諸国だけでなく、世界全体にとっても大きな懸念となっている北朝鮮の核・ミサイル問題について注意を喚起しました。西田大使は、先般の安保理の迅速な対応を歓迎するとともに、新たな措置は効果的な実施を伴わない限りは意味がなくなってしまう旨指摘しました。西田大使による、今後の各国の通常兵器の不拡散における国際的な対応と普遍的な参加を呼びかける言葉で、会合は閉幕しました。
(了)
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