2011年

 
 

制裁及び軍縮・不拡散に関するセミナー(第2回)の開催

 

 

 

2011年12月5日

12月5日、ニューヨークのジャパン・ソサエティーにて、日本政府代表部がポーランドとの共催及びスチムソン・センター(ワシントンDCに所在する有力シンクタンクの一つ)と協力し、制裁及び軍縮・不拡散に関するセミナーを開催しました。

 

この会合は、本年5月31日に日本政府代表部が開催した同様のセミナーが国連加盟国各国の外交官等から好評を得たこともあり、前回に引き続き関係者との間での率直な意見交換と情報共有の機会を提供する観点から、開催することとしたものです。前回の会合が、制裁及び軍縮・不拡散に関し包括的な議論を行う場を提供するものであったのに対し、今回は実務担当者が掘り下げた議論を行う機会を提供することを主眼とした会合となりました。会合は終始満席で、国連事務局(政務局及び軍縮部)関係者、1540委員会(大量破壊兵器の不拡散に関する委員会)、1718委員会(北朝鮮制裁委員会)、1737委員会(イラン制裁委員会)、1973委員会(リビア制裁委員会)の業務を補佐する専門家パネルのメンバー、米国内のシンクタンクのメンバー、企業関係者及び約50カ国の各国政府代表部の大使及び担当者等、合計約120名が参加し、活発な意見交換を行いました。

 

会合においては、冒頭西田恒夫大使が開会の挨拶を行った後、(1)北朝鮮、イラン、リビア制裁委員会の専門家パネルのコーディネーター及び地域情勢の専門家を招いての意見交換、(2)1540委員会の専門家グループのコーディネーター及び各地域における不拡散問題の専門家及び民間実務の関係者による議論が行われ、(3)基調講演として、竹林正夫日立製作所輸出管理本部管理部長による日本企業による輸出管理体制の具体的な取り組みに関する説明が行われました(会合の議題はこちら)。

冒頭のセッションにおいては、北朝鮮及びイランに関する制裁違反事例の特徴や傾向、関連安保理決議の実施を行う上で各国が直面する課題等について活発な議論が交わされました。出席者の多くから、国連加盟国が安保理決議を履行する上で、専門家パネルが行っている調査活動や、違反事例の調査を通じて委員会が得た教訓や勧告内容が安保理メンバー以外にも広く共有されることの重要性が指摘されました。

 

第2セッションにおいては、地域協力及び民間企業における大量破壊兵器の不拡散及び関連安保理決議の実施に向けた努力が議論の中心となりました。1540委員会の専門家グループのコーディネーター及び中央アジア、中南米、東南アジア地域の不拡散問題に詳しい専門家はいずれも、貿易の促進と大量破壊兵器に関連する物資・技術が流出しない安全保障上の考慮をいかに両立させるかについての課題を挙げるとともに、地域内で問題意識を共有すること、能力の限られた国々を支援すること等の重要性を指摘しました。とくに途上国の多くにおいて、大量破壊兵器(WMD)の拡散に対する安全保障政策上の優先順位が必ずしも高くない現状がある中で、武器・薬物の密輸、組織犯罪等、各国にとってより脅威として認識されている問題に対処する際に、WMDにも視野を向けて努力を促す方途についても議論が及びました。その際には、PSI(拡散に対する安全保障構想:Proliferation Security Initiative)等を通じ、関心を有する国々が協力を促していくことも有効であるとの意見も示されました。また、金融実務の専門家からは、グローバル化された国際貿易・金融において、金融機関は、あらゆる取引につき関連する安保理決議に違反することがないか注視していることが紹介されました。また、企業が投資先を選考する上で、各国におけるコンプライアンスの取り組みは、重要な検討事項の一つとなっているとの指摘もありました。

 

基調講演においては、日本を代表するグローバル企業の一つである日立製作所における輸出管理の実施体制が紹介されました。具体的には、個別の輸出案件において、どのように関連国連安保理決議及び国内法令に合致した形で輸出が行われているかについての審査のプロセスや、海外における新しい輸出管理法制が導入された際に、どのように企業として、右に適合する形で事業を行っているかについて、実例に即した説明がありました。質疑応答においては、日本企業の包括的な取り組みに対し高い評価を示す意見が相次ぐと共に、こうした企業努力が他国の企業あるいは中小企業に対しても普及することの重要性を指摘する意見も示されました。同時に、企業が安保理決議等を履行するために、様々なビジネス機会を逸していることも事実であり、そうした点につき、日立等においては、どのように経営判断を行っているのかといった質問もなされました(基調講演のプレゼンテーション資料はこちらP.1~22P.23~41)。

 

北朝鮮問題だけでなく、イラン及びリビア問題に関する最近の関心の高まりもあり、多くの代表部関係者が参加し、活発な雰囲気の中で議論が進められました。リビア制裁委員会の専門家パネルは本年5月の設置後まだ日が浅く、専門家パネルのメンバーがニューヨークを来訪したのが今回初めてであったことからも(注:同パネルのメンバーは基本的にそれぞれの在住国にて勤務)、多くの出席者の関心を集めました。また、我が国に加え、地域において軍縮・不拡散分野の議論に真剣に取り組んでいるポーランドと協力して開催したことも、幅広い国々の参加を得る上で有益であったと考えられます(ポーランドは、日本がオーストラリアと主導して設立し、現在活動している、核軍縮・不拡散に関する外相会合のメンバーでもあります)。また、加盟国の政府関係者だけではなく、国連事務局、専門家パネルのメンバー、研究者、企業関係者等の参加を多数得たことにより、各界の視点から、率直な意見が示されるとともに、知見や経験が共有された点が有意義でした。

 

我が国が重視する、北朝鮮やイランの核問題等に関し、専門家パネルのメンバー及び地域情勢に詳しい有識者の参加を得て、具体的な制裁違反の事例や、最近の傾向等につき、掘り下げて議論を行い、制裁の効果的な実施に関しどのような課題があるかにつき、各国関係者の認識が深められました。こうした点は、国連安保理が所在するニューヨークにおいて、安保理メンバー以外の国連加盟国が、北朝鮮をはじめとする不拡散に関する重要な課題についての理解を深め、積極的な関与を促す上でも大きな意義があったと言えます。また、今回は複数の企業関係者の参加を得て、物品の輸出、技術の海外移転及び国際金融の実務の観点からの具体的な説明がなされたことからも、安保理決議の実際の実施の態様や、実務において直面する課題等につき、より具体的なイメージをもって議論をすることができました。ニューヨークに勤務する各国の外交官や国連職員が、安保理決議の実施に関連して企業関係者と直接意見交換をする機会は少ないことから、こうした機会を得られたことが貴重であり有意義であったとの意見が数多く聞かれました。

 

会合の最後に、西田大使が、議論全体をとりまとめる形で閉会の挨拶を行いました。西田大使は、出席者の積極的な議論への参加に感謝するとともに、日本として軍縮・不拡散の分野において、今後も積極的な役割を果たしていく決意であること、そして国際社会が参加する最も普遍的な場であるニューヨークにおいて、我が国として、今回同様の会合を引き続き開催していく考えを表明しました。

 

注:会合の概要について、スチムソン・センターが作成した資料(英文)はこちらをご覧下さい。

 


西田大使冒頭挨拶 


冒頭セッションに参加した各制裁委員会の専門家パネル 


冒頭セッションで発言するリヴィア元筆頭国務次官補代理


大量破壊兵器不拡散につき議論する第二セッションの出席者 


会合の出席者


基調講演を行う日立製作所の竹林正夫氏


西田大使による閉会時のとりまとめ挨拶


記者からの質問に答える西田大使 


会合の主要参加者:西田大使、スチムソン・センターのレイプソン所長、ポーランドのソブコウ大使 


セミナーの模様  

 

一部写真(上から1~4枚目及び6枚目)提供:Mark McQueen