若林慧 専門調査員 「私の仕事:第5委員会+α」

令和5年5月5日

はじめに

2021年5月から専門調査員として国連日本政府代表部(国連代表部)の行財政部で勤務しています。国連代表部に赴任する前は、外務省で任期付き職員として勤務していましたが、コロナ禍で長らく移動が制限される中、海外での経験を積みたいという思いが日に日に強くなり、タイミングよく募集されていた本ポストに応募しました。


国連の活動を支える第5委員会

私が所属する行財政部ですが、他の部署と比べて少し特異な動きをするため、国連代表部内からも「具体的に何をしているの?」という疑問の声もちらほら。簡単にご説明すると、その名のとおり国連の行財政を見ている部署で、国連の財政・予算・人的資源管理などについて審議する第5委員会への対応が主要な業務の一つです。第5委員会は、10月から12月末にかけて開催される主要会期(主に通常予算を審議)、3月に開催される再開会期第一部(主に人的資源管理を審議)、5月から6月にかけて開催される再開会期第二部(主にPKO予算を審議)の3部構成で、日本は5~6名から成るチームで各会期に臨みます。私も微力ながら日本の第5委員会「専門家」の一人として(※第5委員会では担当のことを「専門家」と呼ぶ。)、多数の議題を他のチームメンバーと分担し、日本の立場を踏まえつつも委員会としてコンセンサス合意ができるよう協議に参加しています。実は「コンセンサス合意」という点が第5委員会の特徴の一つで、他の委員会では珍しくない投票を避けるためにとにかく議論を重ねます。時にはプレッシャーをかけたり、ディールを結んだりと戦略的に動かざるを得ない場面もありますが、最終的には皆が受け入れられる決議となるように努力するその過程に、「国連外交の最前線にいるっぽいなぁ~」と実感します。
第5委員会は予算を審議する関係で他の委員会より閉会時期が遅く、会期延長も頻繁にあるため、クリスマスまでの閉会を目指して皆が交渉に従事します。私が赴任した2021年の主要会期は、コロナにより多くの会合をオンラインで実施したにも関わらず12月24日にすべての決議を採択することができ、お陰で国連総会議場のスクリーンにクリスマスツリーが投影される瞬間を目撃することが出来ました。
他方、昨年はコロナによる制限もほとんど無く期待値高く臨むも残念ながらクリスマスには間に合わず、結局年末もぎりぎりの30日にようやく閉会という結果となり、交渉は生き物なんだなということを思い知るともに、二度と繰り返したくない経験となりました。

 

2021年12月24日未明の国連総会議場


第5委員会は非常に専門的ということもあり日本人の中で知名度は低いかもしれません。恥ずかしながら私も現職に就くまではその存在を知りませんでしたが、今では国連という巨大組織を支える予算・人的資源含むリソースを決定する権限を持つ非常に重要な委員会!という自負があり、交渉は思い通りに行かないことが多く毎回試行錯誤ですが、それでも日本チームの一員として携われることは喜び(と失望)、学びの多い日々です。日本の国連分担金支払いは近年減少傾向にあるとはいえ、今でも全体の8.033%を負担しており、これは通常予算やPKO分担金で賄われる国連活動の約8%が日本の税金で支えられているということ。是非一人でも多くの方に第5委員会の活動と日本の役割について知ってもらえたら嬉しいです。
 

最後に-一生の思い出-

第5委員会に所属する我々は普段予算書を読むことでしか予算要求の理由、各現場での課題、予算執行状況等の情報を得られませんが、年1回、国連事務局が第5委員会代表団のために現地視察を調整してくれます。有り難いことに、私も今年2月に実施された視察に参加させていただき、他の代表部からの参加者約20名と共にイタリア、レバノン、中央アフリカ共和国及びケニアの4カ国を訪問しました。まさに「百聞は一見にしかず」を体験し、PKOやNY以外の国連本部における現場の声を直接聞けたことは日々の業務の中で活かせているだけでなく、何よりも今しかできない貴重な経験をさせていただいたのは一生の思い出です。
 


国連中央アフリカ多面的統合安定化ミッション(MINUSCA)が支援するKaga-Bandoroエリア