反町将之 二等書記官:「国籍・人種・言葉の壁を超えて」

令和4年2月15日

担当業務

2021年11月から、国連代表部政務部にて、国連安全保障理事会(以下、安保理)の担当として、主に中東・北アフリカ地域の情勢をフォローしています。いわゆる「マルチ外交」の最前線で、これまで湾岸諸国やスーダンで二国間関係(バイ)を見てきた者として、物事の意思決定方法や交渉のダイナミズムが全く異なると感じており、日本を含む国連加盟国は多くの外交リソースを割いて、少しでも自国の意見を国際社会の意思として反映させるべく、しのぎを削っています。


言葉の力

私は入省以後、アラビア語研修としてエジプト、カタール、スーダン等の在外公館で勤務してきましたが、安保理含会合含め、国連会議の公用語として英、仏、露、スペイン、中、アラビア語の6か国語が認められています。すなわち、この6ヶ国語で発言すれば、国連側が雇うプロの翻訳者が同時通訳しますので、自国の立場を各国に伝えることができます。時折、国連公用語を母国語としない国が、グローバル公用語の英語“以外”で話すことがあり、「おっ」と思うことがあります。言葉は「パワーの源泉」と感じることが多くありますが、話す内容もさることながら、誰が・何語で・誰に対して喋るのかで、その国の意図を読み取ることができることがあります。
 僭越ながらも、筆者もアラビア語通訳として、過去に会談通訳を務めたことがありますが、当地アラブ外交団との会話は基本アラビア語で行うことで、より親しみを感じていただけるようですし、中東地域情勢の情報収集も容易になります。今後機会があれば、国連公用語の一つであるアラビア語を用いての対外発信にも努めていきたいと考えています。

 

(2020年安倍総理(当時)とサルマン国王との会談:リヤド)
 

安保理の権限 

さて、安保理の任務について少しご説明したいと思います。国連憲章によれば、安保理は、国際の平和と安全の維持に責任を有し、具体的な活動として、紛争の平和的解決のための要請や平和に対する脅威・侵略行為が発生した場合に取るべき行動の勧告が含まれます。また、安保理の意思決定としての安保理決議は、法的拘束力を伴い、全ての国連加盟国が遵守すべき規範となるため、紛争当事者や関係国に与える影響は甚大です。
現在、日本は安保理メンバーではありませんが、常任理事国5カ国の米英仏露中と(国連総会が2年の任期で選出する)非常任理事国10カ国が、安保理議場の内外で日々様々な協議を行なっています。安保理会合には、日本の国会のような会期はなく、さすがにクリスマスシーズン等は休会になりますが、平和に対する脅威が発生した場合は、休日返上で理事国メンバーの外交官達が情勢分析や情報交換をし、実際に緊急会合の形で議場に集まることもあります。ちなみに、安保理会合には、公開のものと非公開(非公式)のものがあり、公開会合はオンラインで視聴できる一方、実際に安保理がどのような姿勢で問題解決に取り組もうとしているのかは、残念ながら、全て「舞台裏」で交渉が行われており、15カ国の理事国以外はその協議に参加することができません。
北朝鮮による弾道ミサイル発射やエネルギー安全保障の観点からの中東・湾岸情勢の動向は、日本の国益に大きく影響を与えるものであり、安保理の中に席を置くこと自体が、日本の国益を守るためにも、また日本がプロアクティブに国際社会の平和と安全の維持に貢献するためにも必要なこととなります。
そのため、日本は、次回安保理選挙(任期:2023~2024年)にアジア太平洋グループから立候補を表明しています。当選に向けて国連加盟国からの支持を得られるよう、各国外交官に対して、日本のグローバルな取組みを説明したり、逆に各国の問題意識を把握したりと努めています。晴れて、日本が再選されることになれば、安保理に入れなかったアジア地域の同僚達の分も、しっかりと奮闘する必要があると考えています。

 

(国連リビア支援ミッション(UNSMIL)マンデート延長決議採択の様子)
 

最後に

国連事務局や各国代表部が集まるニューヨークは、世界を代表する多国籍の街ですので、とても刺激的である一方、コロナ禍含め日々の生活の中で緊張を強いられることも多く、とにかくエネルギーを使う街だなと感じています。
国連事務局の職員や各国外交団と話をする前には、仕事だけではなく、その人の出身国の最近の話題(例えば、ワールドカップ出場)について勉強をすることを心がけています。当たり前ですが、個人が集まることで組織(代表部)が作られ、国連の場で立場が表明されますので、その人をよく知らずして、その国の事は分かりません。着任以後、コロナ禍の制約もあり、思うような活動ができないことをもどかしく感じることもありますが、オンライン会合や食事の際に会ってくれる人々への感謝の気持ちを忘れずに、自分の持ち場で日々邁進していこうと考えています。