増野靖浩　二等書記官兼在外公館警備対策官：「国連代表部における警備対策官の役割」

     私は2022年3月に法務省から外務省に出向し、国際連合日本政府代表部で二等書記官兼警備対策官として勤務しています。今回は、これまでの勤務経験を踏まえ、当代表部における警備対策官としての業務を紹介できればと思います。
 

     警備対策官という名の通り、警備に関する業務全般を担当しています。
     日常業務としては事務所や大使公邸の適切な警備の確保、現地警備要員の指導・監督、警備関連機器の維持管理、治安関係機関との連絡調整、治安関係情報の収集などが挙げられます。また、天皇誕生日レセプションや自衛隊記念日レセプションなどの大規模行事が開催される際は、警備計画を企画・立案し、行事を成功させるためのお手伝いをしています。
 

     ここからは国連代表部の警備対策官ならではの業務をご紹介させていただきます。
     ここニューヨークでは毎年9月に始まる国連総会の会期の冒頭には、各国首脳が集まるいわゆるハイレベルウィークと呼ばれる時期があり、当然日本からも総理大臣や外務大臣が来訪されます。その際の業務について総理大臣の来訪を例に挙げますと、当代表部の警備対策官は他公館からの応援出張者らと共に警備班を結成し、日本側警護官チームの一員として米国側のシークレットサービス（SS）や国連警備局（UNDSS）と調整を行います。その他に無線機の使用申請や、訪問予定地の事前調査の日程調整等も行っています。そして到着後は、総理大臣車列の先導車に乗り、先導車を運転するニューヨーク市警察（NYPD）や同乗するSSと連携を取りながら、日程に沿って車列を適切な場所に誘導する役割や先着隊として訪問先に先回りし、車列の到着を受け入れる準備をする役割などを担っています。
     ハイレベルウィーク中のマンハッタンは大規模な交通規制による渋滞が頻発し、通常であれば10分で到着する距離であっても、到着に30分以上掛かることもあります。また、米国の大統領が移動する際にはその周囲に「POTUS Freeze」と呼ばれる交通規制が掛かり、そこに引っ掛かると解除されるまでは身動きが取れません。（ちなみにPOTUSはPresident Of The United Statesの頭文字を並べたものです。）そうした状況の中で車列をスムーズに動かすことは非常に難しいのですが、NYPDやSSと意見を出し合い、上手く乗り切ることこそが警備対策官としてのやりがいなのかなと感じています。

     総理大臣や外務大臣の車列や宿泊されるホテルの客室は事前に必ず警察犬による爆弾検査が行われます。当地の治安機関は警察犬のことをK-9（ケーナイン）と呼ぶのですが、「K-9」の語源は「canine（犬）」の語呂合わせからきているそうです。
     「警察犬」と聞くと、ドーベルマンやシェパードなどの大型犬をイメージする方が多いかと思いますが、実際にはそういった大型犬のみではなく、かわいい小型犬も警察犬として活躍しています。

     「警備対策官としてNYに赴任することになった。」と知人に伝えても、警備員と誤解されることが多く、私自身も警備対策官研修を受け、実際に当地に赴任するまでは警備対策官としてどういった業務を行うのか分からないことだらけでした。本稿により、当代表部の警備対策官の業務について、皆様に少しでも御理解いただければと考えています。