第10回国連緊急特別総会(中東情勢)における佐藤行雄国連代表部大使ステートメント
平成14年5月7日
議長、
ジェニン難民キャンプで起きた出来事に関する正確な情報を把握することを目的に派遣されようとした事実調査団が、イスラエル政府の受け入れ反対により解散されざるを得なかったことは大変遺憾なことです。他方で、米国その他の関係国の政府及び国連による説得、そしてイスラエル及びパレスチナ双方の当局間の努力が重なって、選挙により選ばれたパレスチナの指導者であるアラファト議長の自由が回復され、またベツレヘムにおける対立も解決に近づきつつあると言われることは勇気づけられる材料です。
しかし中東情勢は引き続き危機の状況にあり、2000年秋以来繰り返されてきた暴力と報復の悪循環に終止符を打ち、イスラエルとパレスチナという二つの国家が、安全が保障されかつ承認された境界の中で平和裡に共存することを可能にするための政治的なプロセスを再開することが国際社会にとっての喫緊の課題です。
議長、
日本政府はこれまで、独立国家を設立する権利を含むパレスチナ人の自決権と、安全が保証され、かつ、国際的に承認された境界の中で平和裡に生存するイスラエル人の権利の双方を一貫して支持してきました。また、両当事者の政治的なプロセスを再開するために日本政府は、イスラエルに対してはパレスチナ自治区からの即時の撤退を、そしてパレスチナ側にはテロ行為を阻止するために必要な措置を強化することを繰り返し求めてきました。
更に日本政府は、イスラエルとパレスチナの平和的共存を確保するための政治プロセスを円滑に軌道に乗せていくためには、中東地域の恒常的な平和の達成を確保するために必要ないくつかの分野における努力を国際社会が関与する形で、かつ同時に進めることが重要と考えています。この観点から川口順子外務大臣が最近明らかにした重層的なプロセスについての提案は、特に次の三つの努力を同時併行的に進めることを提唱しています。
- 第一に、政治プロセスを安定的に進めることを確保するために、国際会議を開催して停戦合意を国際的に保証し、あわせて、政治プロセスの諸目標、とくにパレスチナ国家の独立達成という目標を国際的に明確にすること。
- 第二に、平和回復への努力を支援するために、中東地域の安定と発展に対する国際社会の協力を強化すること、そしてそのための手段の一つとして、この地域内の協力事業を促進するための多国間協議を再開すること。
- 第三に、イスラエル人とパレスチナ人の間に幅広い信頼関係を作っていくこと。
日本政府はこれらの三つの努力の各々について積極的な役割を果たす用意があります。この関連で日本政府は、5月2日のワシントンにおける「四者協議」の後にコリン・パウエル米国務長官が提示した国際会議開催の考え方を支持しており、この会議の開催を準備するための議論に積極的に参加する用意があります。
また、イスラエル人とパレスチナ人の間の信頼醸成のために日本政府は、政府当局者に限らない双方の幅広い関係者がイスラエル人とパレスチナ人の平和共存のあり方や将来のパレスチナ国家のビジョンを議論するための場を提供する用意があります。
議長、
現在の情勢の下で国際社会が緊急に取り組まなければならないもう一つの重要な課題は、パレスチナ人が直面している非常に困難な人道的な緊急事態の改善です。この目的に資するために日本政府は今般、約330万ドルの緊急人道支援を国連開発計画(UNDP)を通じてパレスチナ人に対して行なうことを決定するとともに、国連パレスチナ難民救済事業機関(UNRWA)の緊急アピールに応え、同機関に対し医療・保健分野で約120万米ドルの支援を行う方針です。さらに我々は追加的な人道支援を行なう可能性も検討しています。
議長、
中東問題の解決のために国際社会の支援と協力は重要であり、とくに米国政府の積極的な役割が中東の平和のために不可欠な触媒であることはこれまでの経験が示しています。日本政府としても、共通の目的のためにできる限りの努力を行っていく方針です。
しかしながら最も重要なことは、この紛争の当事者が必要な自制と政治的な決断を行うことです。そのような認識にたって、イスラエル政府とパレスチナ自治政府の指導者に対して対話の再開のために最大限の努力を行うことを改めて求めて、私の発言を終えたいと思います。
有り難うございました。
|