第58回総会第5委員会再開会期第2部における
議題134「PKO財政の行財政的側面」に関する小澤大使ステートメント
2004年5月4日
1.「国際連合は、憲章の文言によれば、戦争の惨禍から将来の世代を救うために創設された。」「この課題に取り組むことが国連の最も重要な機能である。」「過去10年間、国連はこの課題の取り組みに繰り返し失敗し、今日もそれは変わらない。」
言うまでもなく、この鮮烈な一節は「国連の平和活動に関するパネル報告書」(ブラヒミ報告書)の書き出しである。この報告書に基づき、国連は活発な議論を積み重ね、数々の改革を実施してきた。我が国もその改革努力に積極的に関与してきた。こうした努力は実を結びつつある。PKOの復活は世界の利益であり、我々はこれを歓迎する。
2.しかしながら、皮肉なことに、かつてない規模でのPKOミッションの設立及び展開は、PKOの復活に暗い影を落としつつある。4月2日の記者会見において、安保理議長国はPKOのために必要となる予算が45億ドルという未曾有の規模に膨れあがる可能性を示唆した。この場合、我が国は約9億ドルを負担することになるが、これは我が国のアフリカに対する二国間ODAの一年分を超える巨大な額である。平和に値段は付けられないと言われるが、他方で加盟国が有する資源は限られている。膨張するPKO予算は、本来であれば開発、貧困削減といった分野に振り向けられるべき資源を事実上費消してしまうという事実を加盟国は重く受け止めるべきではないか。また、この関連で、PKOマンデートとして開発や人権側面等、他の機構が担うべき活動までPKOで行うべきなのであろうか。このような状況が継続することが国際社会全体にとって利益であるのか加盟国は真剣に検討すべきものと考える。
3.我々はPKOを再び失敗させてはならない。こうした観点から、我が国としては以下の4点を重視している。
(1)第1に、安保理は、PKOミッションの設立を決定する際に出口戦略を併せ策定するべきである。出口戦略の策定はミッションの撤退期限を恣意的に設定することを意味しない。その趣旨は、マンデートの達成度を計る具体的なベンチマークを定め、それを定期的に点検するとともに、達成度に合わせて規模を縮小し、マンデートを完全に満したと判断されれば撤退するということである。適切な出口戦略の策定なくしてPKO予算を合理化することはできない。こうした観点から、我が国としては、本年のPKO特別委員会報告書が「新たなミッションが計画される際には、出口戦略が十分に考慮されなければならない」としている点を評価したい(当代表部注:本件報告書が国連文書として発出された後、文書番号及びパラ番号を挿入)。
(2)第2に、リベリア、コートジボワールに引き続き、今後、ブルンジ、ハイチ、スーダンにおいて大型ミッションの立ち上げが見込まれる中で、PKOミッションの早期展開に関する教訓(lessons
learned)を十分に蓄積・分析し、それを今後の政策に活かしていくべきである。PKO財政の側面に限っても、戦略展開備蓄、平和維持留保基金、ミッション設立決定前におけるコミットメント・オーソリティ等、PKOミッションの早期展開を確保するために既に導入した措置は種々存在する。こうした措置を目先の問題の解決のために拙速に変更すれば、将来に亘って禍根を残すこととなろう。なお、早期展開に関する教訓を蓄積・分析するに当たり、内部監査室及び会計検査委員会が大きな役割を果たすべきことは言うまでもないが、我が国としては、これまでの予算措置によって強化されたPKO局ベスト・プラクティス・ユニットの機能も重視している。
(3)第3に、PKOミッションの設立・展開に際して重要な役割を果たす国連事務局の改革も、引き続き強力に推進していくべきである。この観点から、最近のPKO局改組の影響に関する内部監査室報告書(A/58/746)は有益であり、特に我が国としては、同報告書がPKO予算策定プロセスと安保理への報告プロセスの連関を強化する必要性を指摘している点(パラ65)に注目している。また、PKO局における職員構成が衡平な地理的配分を反映していないことも問題である。我が国としては、サポート・アカウントに関する昨年の総会決議(Res/57/318)パラ10に基づく事務総長報告を十分に検討した上で、第59回総会における人事管理に関する討議の中で本件につき追究したいと考えている。
(4)第4に、膨張するPKO予算が加盟国の負担能力を超え、また、開発分野など他の分野に振り向けるべき資源を事実上費消してしまう事態を回避するため、PKOに要する償還金の合理化についても考慮すべきである。償還金については、過去の経緯を踏まえて総会のCOE作業部会で議論され、技術的観点からの議論により要員経費に本来派遣国が手当すべき基本給与が含まれるなど構造的な問題点が認識されているにもかかわらず、議論の俎上に上げることすらできないのが現状である。また、償還金の対象となる活動についての検証(verification)を厳格に行っていくことが重要と考える。日本は要員派遣国であるが、償還金の合理化について議論する準備がある。未曾有の状況にあっては、議論に聖域を設けることなく大胆な発想で取り組むべきであると考える。
4.ブラヒミ報告書は言う。「加盟国は、国連がその構成要素の総体であることを認識すべきであり、改革のための第一義的な責任は加盟国に存するということを受け入れるべきである。(パラ266)」 この指摘は現在においても妥当する。PKO予算が歴史的な規模に膨張し、加盟国の負担能力を超えようとしているのは厳然たる事実である。我々はこの問題が存在しないかのように振る舞うことはできない。問題解決のための第一義的な責任は加盟国に存するのである。
(了)
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