アフガニスタン情勢に関する安保理公開討論における緒方貞子アフガニスタン支援総理特別代表演説(仮訳)
平成14年7月19日
議長、
アフガニスタンの重要問題につき議論するために安保理に参加することは光栄です。安保理がアフガニスタン国連事務総長特別代表であるブラヒミ大使の出席を得て本会合を開催することは実に適切なことです。彼の貢献は広く認められておりますが、緊急ロヤ・ジルガの期間中、アフガニスタンにおける平和と繁栄の達成のための同大使のただならぬ努力を間近で拝見し、私は国際社会とともに、同大使の業績に対する深甚なる敬意と謝意を表したいと思います。
私は小泉総理大臣の特別代表として、6月13日から19日までアフガニスタンを訪れました。この期間中、緊急ロヤ・ジルガへの立ち会いに加え、カルザイ大統領を含むアフガニスタン政府の主要関係者、ISAF指導部及び現地外交団のメンバーと議論することができました。私は、また、カンダハールを訪れ、地方政府の関係者及び国際連合諸機関の代表の方々ともお会いする機会を得、また、パキスタン国境付近及びそれをまたいで位置するスピン・ボルダック及びチャマンの国内避難民(IDP)・難民キャンプを訪れました。私の全般的な印象は、5ヶ月前に私がアフガニスタンを訪問して以降、顕著な進展がみられるということでした。現地で知ったことに基づき、安保理に対し私の所見を述べるとともに、今後の進むべき途について提案させていただきたいと思います。
議長、
緊急ロヤ・ジルガのプロセスは、アフガニスタン全土及び在外から代表を選ぶための草の根レベルの努力から開始されました。200人の女性を含む1650人の選ばれた代表が巨大なテント張りのホールに参集し、一週間以上にわたり演説し、演説に答えることに立ち会うのは、印象的な光景でした。カルザイ大統領が秘密投票により85パーセント以上の賛成を得て選出されたことを心からお祝いいたします。緊急ロヤ・ジルガを成功裏に終了したことは、アフガニスタンの長期的な平和及び復興のために不可欠なことでした。その一方で、新たに発足したアフガニスタン暫定政府がよって立つ政治バランスは依然として非常に不安定です。このことは、つい最近起こったハッジ・アブドゥル・カディール副大統領の悲劇的な暗殺により明白となっています。私は、アフガニスタン国民に対し、深い哀悼の意とお悔やみを表明したいと思います。このような展開から、国際社会が政治的及び国民的和解プロセス双方の明確な進展を確保するため、新たに発足した政権を引き続き支援していくことがなお一層重要となっています。
緊急に取り組むべき問題が二点あります。それは、治安と難民の急速な帰還です。全土における適切な治安の提供は、和平を定着させ、復旧・復興の努力を前進させるための前提条件です。カンダハール地方で、この数ヶ月内に北部から退避してきたパシュトゥーン人のIDPの方々に会った際、彼らは、治安面の脅威について話し、マザリ・シャリフに平和維持プレゼンスを展開することを求めていました。彼らは、武装分子の動員解除及び武装解除、失われた財産の補償が帰還のための前提条件であるとしていました。アフガニスタンにおける最近の進展に鑑み、私は、彼らの述べたことは、安保理における再検討に値するものと感じています。私は、ISAF又は他の平和維持軍を北部の不安定な地域に展開することを要請する声に賛同します。私達は、また、IDPの帰還を支援する方法を見い出さなければなりません。更に、国際的な努力により国軍、警察及び司法制度の改革・再建や、武装分子の動員解除及び社会復帰が速やかに具体的成果を上げるよう支援することが重要です。安保理メンバーがこの方向に向かっているという代表の皆様の発言を喜ばしく拝聴しました。
もう一つの重要な問題は、特にパキスタンからの難民の帰還が急速であるということです。私のカブール滞在中に、100万人目の帰還者が記録されました。私がカブールで訪れた学校では、生徒の半数が最近帰還した子供達でした。このこと自体は人々がアフガニスタンのより良い将来に期待していることを示すものであり、歓迎すべきことです。難民の帰還率が変動することは避けられません。しかし、その規模は、干ばつ及び場所によっては民族対立による新たな国内避難と相まって、彼らを受け入れる地域社会の受容能力を容易に超えてしまうおそれがあります。このことは、中長期的には、アフガニスタンの治安環境及び政治的安定に深刻な影響を与え得るものです。この懸念は、私がお会いしたカブール及びカンダハールの政府関係者が繰り返し表明しており、安保理が最近採択した決議1419においても認識されていることも付け加えたいと思います。最悪のシナリオを避け、国を安定させるためには、地域社会に速やかにとけ込めるよう、帰還民及びIDPに対し、雇用機会その他の支援を提供するための緊急の措置がとられなければなりません。アフガニスタン政権は、社会開発プログラムの策定、実施のための支援を必要としています。
議長、私達は今、どうすべきでしょうか。
私達が、現在ボン・プロセスにおける緊急ロヤ・ジルガ後の段階にあることに鑑み、国際社会は、次のステップに進み、その復興支援活動を全面的に実施し始めなければなりません。この関連で、今月10日、パリにおいて、アシュラフ・ガーニ移行政権蔵相及びブラヒミ大使の出席を得てアフガニスタン復興支援運営グループ(ARSG)共同議長国間会合が開催され、これが現在のニーズ、プレッジされた資金についてレビューし、将来の戦略について調整する良い機会となったことをお伝えできることは幸いです。
実施面から申し上げれば、全面的な復興の取り組みが待たれますが、それは依然として計画段階に留まっています。現場で視察した状況から判断すると、復興活動は依然として遠く、人道支援が引き続き支配的でした。この点において、人々の復興及び難民、IDP及び元兵士の社会復帰のニーズに答えるため、地域社会開発に対し全力を挙げた取り組みを傾注すべきです。飲料水・農業用水供給設備、教育、公衆衛生設備、医療サービス及び道路再建事業を早期に実施することは、この時期において決定的な違いを生むことになります。カルザイ大統領が繰り返し優先事項であると強調している道路については、私は、アジア開発銀行に対し彼のメッセージを伝え、計画を速やかに実施するよう要請しました。
日本は、UNHCR、ユニセフ、WFPその他の国連人道機関による難民及びIDPの帰還・社会復帰プログラムは、世界銀行及びアジア開発銀行による地域復興計画と組み合わせ、包括的な地域開発プログラムの基礎を構成するものと考えています。実は、このようなプログラムは、UNAMA主導の下、移行政権及び地方政府と密接に協議しつつ策定されています。カンダハールが出発点となり得ます。この点から、日本は、既にカブールで成功裏に行われているUNDPの「REAP」として知られるアフガニスタンの復旧及び雇用に係るプログラムをカンダハールに拡大することを決定しました。日本は、このような包括的な地域開発の策定及び実施において主要な役割を果たす所存です。今後数週間以内に、大規模なアフガニスタン支援パッケージを発表する予定です。包括的地域開発プログラムは、その相当部分を占めることになるでしょう。
議長、
演説の冒頭で、私は、アフガニスタンに関する全般的な印象として、過去5ヶ月の間に顕著な進展が見られると述べました。演説を終えるに当たり、私が見たことを述べさせて下さい。カブールの北にあるショマリ平原に戻った時、1月に故郷を目指していた国内避難民の方々が既にもといた地域に定着して家の再建を始めていました。幾つかの家族は既に家の再建を終え、手工芸の作業を再開していました。もう一つの勇気づけられる復興の兆しとして、畑の葡萄には緑が芽吹いていました。このような進歩は、小さくとも、アフガニスタンの人々に平和の配当を実感させるものです。結局、重要なのはこのようなことであり、国際社会は、この流れが後戻りしないようにするため、支援を継続していなければならないのです。
有り難うございます。
|