第48回婦人の地位委員会日本代表ステートメント
2004年3月3日
1.総論
平和で、男性も女性も性別にかかわりなく、その個性と能力を充分に発揮することができる男女共同参画社会は、私たち63億の人類のうち半数を占める女性のみならず、男性の幸福をも実現する社会に他ならない。今回の婦地委が、男性と男児の役割及び平和構築のための女性の役割に議題を定めていることは誠に時宜を得たものと考える。
以下、今次婦地委のテーマである「男女平等を達成するための男性と男児の役割」及び「紛争予防・管理・紛争解決及び紛争後の平和構築への女性の平等参画」について、日本にとっての課題及び取組みを中心に紹介したい。
2.男女平等を達成するための男性と男児の役割
我が国で現在行われている有識者による政府検討会では、性別による固定的な役割分担意識を背景に、男性が子育て期に長時間労働を余儀なくされ、家族とともに充実した時間を過ごすことが難しく、子育ての喜びを発見しにくい状況にあることなど、現状は、女性ばかりでなく、男性にとっても必ずしも幸福な状況とは言えないことが指摘されている。男女共同参画社会は、性別にかかわらず仕事と家庭生活の両立や自己実現が可能である社会であり、そうした社会をつくるための取組みこそが、真の男女平等の実現につながる。
男女共同参画社会の実現のためには、女性のみならず、男性や男児の意識改革が不可欠である。2002年7月の内閣府による世論調査によれば、5年前と比較すると、夫は外で働き、妻は家庭を守るべきであるとの考え方について、反対とする人の割合が9.2ポイント増え47%となっているものの、性別に基づく固定的な役割分担意識を是正し、人権尊重を基盤とする男女平等感の形成を一層進めていく必要がある。ここでは、特に教育と労働の領域を例として取組みを紹介する。
我が国は、学校、家庭、地域等の社会のあらゆる分野で男女平等を推進するための教育と学習の充実を図っている。
学校教育においては、児童の発達段階に応じて、例えば、家庭科の授業の際、家族や家庭の維持、社会とのかかわりについての学習を充実している。更に、女性も男性も一人ひとりが自らの生き方を考え、自分の意思と責任で将来の進路を選ぶための能力や態度を身につけることができるように進路指導やキャリア教育を推進している。
また、社会教育では、男女がそれぞれ個性と能力を充分に発揮して、社会のあらゆる分野に参画していくための学習機会を充実し、特に男性、父親が子育て、家事、教育、介護、地域活動等の分野に女性とともに積極的に参画していくための支援を充実している。家庭教育においても、夫婦が一致協力し、父親が積極的に参画するように、意識啓発や学習活動を推進している。
我が国は、働く女性が性別により差別されることがなく、その能力を十分に発揮できるよう、男女の均等取扱いの確保を図っている。しかし、依然として固定的な性別役割分担意識などを原因として男女労働者の間に事実上の格差が生じている。
このような格差の解消を目指して、我が国では、個々の企業が実情に応じた目標を立てる際に活用できるよう、同業他社と比較したその企業の女性の活躍状況や取組内容についての診断を受けられるベンチマーク事業の実施や、ポジティブ・アクションの取組事例集を作成する等、ポジティブ・アクションの普及を促進しているところである。
こうした取組を通じ、最近では、「ポジティブ・アクションに取り組むことは企業にとってプラスである」「女性を戦力として活躍できる環境を整備することは企業を強くする」というような大手企業トップの発言にみられるように、積極的にポジティブ・アクションに取り組む企業が見られる等の変化が出てきている。
また、政府は、社会のあらゆる分野において、2020年までに、指導的地位に女性が占める割合が少なくとも30%になるような取組みを進めているところである。
また、日本においては、少子化が急速に進行しており、特に、子育ては男女が協力して行うべきものと視点に立った取組を推進することが重要課題である。そうしたことから、昨年3月に、時間外労働の縮減などの「男性を含めた働き方の見直し」や社会全体の育児休業取得率などの数値目標を掲げた「仕事と子育ての両立の推進」等を内容とする「次世代育成支援に関する当面の取組方針」を決定し、各種の取組を実施している。
併せて、地方公共団体・大企業に対して次世代育成支援対策のための行動計画を策定することを義務付ける法律が、昨年7月に成立し、2015年まで集中的・計画的な取組を推進することとしている。
根強い固定的性別役割分担意識の変革、女性の就労に関する環境整備、少子化への対応のためには、今後もクリアしていくべき課題は多いが、我が国は、現在の施策を更に進めて参りたい。
3.紛争予防・管理・紛争解決及び紛争後の平和構築への女性の平等参画
次に紛争予防・管理・平和構築等における女性の役割について取り上げたい。幸いにも我が国にとっては、紛争予防・管理・平和構築といった問題は、21世紀の今、国連や国際機関、他の国々やNGOと協力しながら、教育を始めとした女性のエンパワーメントを進めつつ、これらを必要とする地に如何に協力をしていくべきかとの観点から取り組んでいる問題である。
「紛争と女性」については、2000年10月31日に安保理において1325号決議が採択されて以来、日本は右決議の内容を支持し、その実現に努めている。
例えば、我が国が外交の柱の一つとして掲げる「人間の安全保障」の考え方において、紛争下における女性の保障は重要課題の一つであり、2003年5月に人間の安全保障委員会が事務総長に提出した報告書において、紛争後の状況下における人々の保護と能力強化の対象として、「女性の参加促進」が取り上げられている。また、2003年8月に閣議決定された新政府開発援助(ODA)大綱では、ODAの重点課題の一つに平和の構築が掲げられるとともに、男女共同参画の視点を重視することについては、政策立案から実施段階に至るあらゆる段階において配慮すべき重要事項である基本方針の中に盛り込まれている。
我が国は、女性のエンパワーメントは平和と安全な国造りのためにも欠かすことができないと認識しており、NGOを通じた支援や専門家の派遣、研修員の受入れ等多様な二国間援助、人間の安全保障基金や国連婦人開発基金(UNIFEM)等の国際機関を通じた支援等の分野で積極的に貢献している。
これに関連し、先般、緒方貞子前UNHCR高等弁務官(現JICA理事長)が、ノーベル経済学賞を受賞されたセン・ケンブリッジ大学教授とともに「人間の安全保障委員会」報告書をコフィ・アナン国連事務総長に提出し、Dr.
Frene GINWALA, Speaker of the National Assembly of the Parliament
of the Republic of South Africaや、Ms. Sonia PICADO, President of
the Board of Directors of the Inter-American Institute of Human
Rights等の世界の指導的女性とともに、英語のみならず、西語、仏語、露語、日本語で出されたこの報告書の考え方を世界に広める努力を行っていることは、女性のエンパワーメントとオーナーシップ実現のための大きな推進力になるものであり、敬意を表したい。
アフガニスタンについては、2002年1月のアフガニスタン復興支援国際会議で日本が発表した復興支援策において、重点分野の1つに「女性の地位向上及び国づくりへの参画」を掲げていることからも明らかなように、我が国は紛争後の和平プロセスへの女性の参画を重視している。タリバーン支配下で自由を大きく制限され、また長年の戦乱により難民や国内避難民、寡婦や孤児となった多数の女性・女児にとって、復興は社会基盤の整備とともに、人間としての尊厳と市民としての権利の確保を意味するものであり、女性の主体的参画なくして平和構築はありえない。他方、新憲法を広く国民の意見を取り入れて制定しようとするアフガニスタンの努力を我が国を含む国際社会が支援した結果、先般新憲法において女性の権利が明確に規定されたことを心から歓迎する。民主化や平和構築を進めることにより女性の地位が向上していっている好例として注目している。
日本は、今後も安保理決議1325号のフォローアップなどに積極的に関与するとともに、様々な国際協力を通じ、紛争予防・管理・紛争解決及び紛争後の平和構築への女性の平等参画のために出来る限り貢献していきたい。
4.結び
我が国としては、国内及び国外における女性の地位向上と男女平等の実現に向けて、国際機関及びNGOを始めとする市民社会と更なる意思疎通と協調により、施策の推進に努めていきたいと考えている。
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