川口総理大臣補佐官スピーチ(抄訳)
外交政策協会主催ランチョン会合
平成17年2月16日 於NY
(はじめに)
ご紹介頂き有り難うございます。本日、米国各界の第一人者の方々を代表する外交政策協会の方々を前に講演をさせて頂くことを大変光栄に存じます。また、本日は、高名なガンバリ国連事務次長及びドイル教授もお招き頂いて本日の会合を開催して頂いたラティーフ会長に感謝します。
外交政策協会は、ほぼ一世紀前の1918年に設立されて以来、米国の外交政策及び世界の抱える問題に関する啓発と理解の促進に努めてこられました。外交政策協会はその設立以来、国際連盟の設立、第二次大戦、冷戦と冷戦後の1990年代、そして今、9・11後の時代を見てこられました。私は同協会が外交問題における米国のリーダーシップを高める上で大きな貢献を行ってこられたものと信じております。 この場をお借りして深い敬意を表させて頂ければと思います。
ご列席の皆様、
(序)
本日、私は、最近国連事務総長に提出された二つの重要な報告書で取り上げられている問題について、最近まで外務大臣として務めた経験を通じて得た見解に基づいて述べたいと思いますが、特に二つの問題に密接に関連する国連改革、特に安保理改革の問題について詳しくお話したいと思います。
2005年は国連設立60周年を迎える重要な年であり、まさにこの問題を取り上げて議論する絶好の機会だと考えております。1945年に51の原加盟国をもって設立された国連は本質的には戦勝国の組織でしたが、今や191の加盟国を擁する真に普遍的な組織となるまでに成長しました。この間、国連は、その構成だけでなく、地政学を巡る勢力バランス等において著しい変化がありました。本年9月には、 新しい千年期を迎えた5年前に採択されたミレニアム宣言の進捗状況を再検討するために、世界の指導者が集合します。日本的に言えば、国連の「還暦」を祝う機会と言うこともできますが、国連の将来に関する重要な決定、つまりは、今日の新しい現実をよりよく反映し、世界が直面する深刻な脅威と挑戦の諸課題により効果的且つ迅速に対処できる国連を作り出すという決定をするための、またとない機会とも捉えることが出来ます。
(二つの報告書について)
ご列席の皆様
16名の有識者によって作成されたハイレベル委員会報告書、及びサックス・コロンビア大学教授の下で多くの開発専門家が執筆に関わったいわゆるミレニアム・プロジェクト報告書については、多くの議論がなされてきました。前者は新たな集団安全保障の問題を取り上げており、非常に秀逸な示唆を与えているものと思います。また、後者においては、ミレニアム開発目標を達成するにあたっての考えが示されており、我々はそれらの指摘の多くについて問題意識を共有します。
これら二つの報告書の根底にある考え方は、グローバル化した今日の世界において、国際の平和と安全保障の問題が開発と密接に関連しているという点であります。勿論、平和・安全保障と開発の相互関連性自体を指摘することは新しいものではありませんが、直面しているこうした関連性を現実的、実質的に真正面から認識していることは、啓発的であります。
例えば、貧困は単に低開発の結果というものではなく、保健、教育、水といった国造りにとって重要な分野の資金不足の問題と密接に関連しています。貧困は、ガバナンスの失敗、脆弱な体制、腐敗の原因あるいは結果となることも少なくありません。また、貧困にあえぐ人々は、社会的不正義や不公平に直面することで、過激派の影響を受けやすく、国際テロリストに利用され、コミュニティが徴集と訓練の巣となることもあります。そのため、我々は、どんなに離れた国に対しても、低開発や貧困に無関心であってはなりません。
このような相互関係が見られる現下の情勢においては、いかなる国も、たとえそれがいかに強大であるか、富んでいるか、または超大国であるかにかかわらず、こうした諸関係の影響から逃れることは出来ません。言い換えれば、国際社会がこうした幅広い分野の脅威と挑戦に対して効果的に対処するためには、協調的行動と国際的な協力が不可欠なのです。
平和と開発の関係に関する日本の考え方を申し上げれば、平和と開発は表裏一体であり、日本は、引き続き開発協力に努力を傾注することにより、国際社会の平和と安全、繁栄に貢献していく所存です。最近の例で申し上げれば、イラクにおける復興支援活動や、スマトラ沖地震とインド洋における津波災害の発生時における日本の迅速な支援の実績があります。日本はこうした重大な局面において常に迅速で揺るぎない取り組みを示してきました。日本はミレニアム開発目標(MDGs)達成に向けても同様に積極的に取り組んでいく所存であり、過去10年間のODA総額においてトップドナーとして貢献してきた努力が示すとおり、今後ともODAの水準を引き上げていくよう努力していきたいと思います。
(国連改革 )
報告書で取り上げられた問題に取り組むにあたっては、国連システムが中心的役割を果たさなければなりません。なぜならば、国連は唯一の普遍的機関として、その決定に対する権威と正統性を有する唯一の機関であるからです。もし、そのような権威と正統性が存在しなければ、世界が政治的意思を結集させ、必要なリソースを動員し、真の国際的な協力と効果的対応をすることは、不可能ではないにせよ難しくなるでしょう。
さらに、この世界機関は、その設立後60年を経た今、包括的な改革、特にその中核的な機関である安保理の改革が必要と認識しております。国連事務局はその運営と効率性の観点において改善されなければなりません。国連改革を論ずる上では、かつてアナン事務総長が、国連を如何に望ましく、強力な、または効果的な組織とするかはメンバー国次第であると述べたことを想起すべきです。事務総長の発言は、国連があくまでメンバーの集合体であり、決して独立した若しくは自己完結的な存在ではないという意味で正鵠を得た指摘と言えましょう。この点、米国や日本といった重要で影響力のある加盟国がこれまで行ってきたコミットメントや果たしてきた役割がいかに重要であったかということがきちんと認識されなければならないことは言うまでもありません。
ちなみに、イラクにおけるオイル・フォー・フード・プログラム・スキャンダルや、コンゴにおける平和維持部隊の性的虐待等の報告等をきっかけに国連に対する批判の声が高まっています。これらは全て深刻な問題であり、国連にとって大きな痛手となるものであり、効果的な対策が精力的に行われなければなりません。この際に明らかになった国連内部の欠陥や弱点を改善するためにしっかりとした取り組みが為されなければなりません。このような理由からも、国連を多面的な問題及び21世紀の新たな脅威と課題に対処し得る効果的な組織として機能するものとなるための改革が何よりも重要なのです。
( 平和の構築及び定着 )
ご列席の皆様 、
私は安全保障と開発の課題に取り組み、国連の効率性を向上させる上で、日本が特に重要と考える点について何点か述べておきたいと思います。
先ず第一に、紛争から平和への移行期にある国での平和の定着についてです。紛争の予防は先ず以て最も重要でありますが、一旦紛争が発生した際、国連は紛争下にある国において平和を実現し、維持し、定着させることを支援することが期待されています。これは、私が外務大臣時代に、国連及びその他のパートナーと密接に協力しながら、特に関心を持って取り組んだ分野であります。東ティモールやアフガニスタンがまず想起されますが、これまで日本は、カンボジアを始めとして、コソボ、スリランカ等の非常に重要な地域において取り組んできました。日本はこうした移行期にある国々において、難民、国内避難民への支援、一般市民の地雷の脅威からの保護、兵員の武装解除と社会復帰、復興・開発支援、制度構築支援等多岐の分野に亘る支援の実施を展開してきました。個々の状況に応じて相当な量のODAが投入されました。
この関連で、ハイレベル委員会の報告では、国連システム内の組織的なギャップを埋めるための措置として、戦時から平和への移行に際して生じる問題に対する国際社会の対応に一貫した戦略を提供するため、平和構築委員会を設置するとの興味深いアイデアを提唱しております。我々は基本的にはこうした考え方を支持しておりますが、今後更に安保理と経社理双方を関与させる様な形で、場合によってはその合同の機関の設立等何らかの革新的なメカニズムを見いだすべきと考えています。
( 人間の安全保障 )
第二に、安全と開発の課題に対応するためには、前述した新たな脅威や挑戦に対処する我々の努力において重要な要素として、「人間の安全保障」の理念を推進することが重要と認識します。グローバル化に伴い、どんな国家でも、あるいはどんなに国家安全保障が強固であっても、国も人もこうした脅威から逃れることはできません。人間の安全保障を強調するアプローチは、国家の安全保障よりも一人ひとりの安全を確保するためのアイデアと方策を求めるものです。このアプローチの眼目は、「保護と能力強化」にあり、人々が脅威を免れ、自らの足で立っていけるように能力が強化されることが、特に重要です。我々は恐怖からの自由と欠乏からの自由の双方に対応する必要があることを認識すべきです。
それでは、我々はどのように人々を保護し、能力強化していくのか、そして具体的な取組はどのようなものでしょうか。もちろん、国・コミュニティ・個々人毎に、取り巻く環境や直面する困難・脅威は異なります。そのため、画一的な対処ではなく、個別かつマルチセクトラル(複数分野にまたがる)アプローチをとることが必要です。わが国は、「アフリカン・ビレッジ・イニシアティブ(AVI)」を開始しました。これは、 「人間の安全保障」の考え方に基づき、様々な機関とも連携しつつ、コミュニティのニーズに応じて、例えば学校建設と同時に井戸の掘削や学校給食の提供、地域社会全体を対象とした保健サービスの提供などの支援をマルチセクトラルに組み合わせて行うことにより学校を核としたコミュニティの能力強化を図るものです。こうした支援アプローチはこれまで既にアフリカ各国で実施してきました。私は、このイニシアティブが「人間の安全保障」の推進に向けた好例となるものと考えます。
( 自然災害 )
第三に、ハイレベルパネルは国際社会が直面する6つの脅威を挙げています。即ち、貧困、国家間紛争、国内紛争、大量破壊兵器、テロ、国際組織犯罪等です。しかしながら、昨年12月のスマトラ沖津波災害による被害は、自然災害の深刻さを改めて我々に物語るものであり、我々が更にこうした自然災害という7番目の脅威に直面していることを示すものです。
多くの国と人々を同時に巻き込んでもたらされた今回の甚大な惨事は、悲劇的な形ではありますが国際社会に一つの教訓をもたらしました。即ち、自然災害の発生自体を食い止めることはできないにせよ、早期警戒の強化を含む国際的な災害防止乃至軽減のための協力体制の強化を通じて、被害を軽減し、最小化するための措置を取るのが我々の責任であるということです。 言い換えれば、現在、国家の開発計画において統合された災害削減策を講じることが肝要だと考えられているのです。先月神戸で開催された国連防災世界会議において小泉総理が表明した「防災協力イニシアティブ」はこうした考え方を進めていく努力の一環なのです。
( 安保理改革 )
私が先ほど述べた全ての点が、国連によって効果的に対処されなければなりません。しかし、現在の国連はそれを行うのに最も適した機関でしょうか。
昨年秋、日本の総理大臣は国連総会においてスピーチを行い、「新しい時代に向けた新しい国連(国連新時代)」、つまり、我々が今日の世界で直面している脅威に対処しうる効果的な国連の形成を呼びかけました。また、総理は、独、印、ブラジルの指導者とともに、改革され、拡大された安保理において常任理事国の地位を得ることを目指して緊密に協力していくことを明らかにしました。
恐らく、加盟国の中でも、日本ほど国連との関係が劇的に変化した国もないと思われます。1945年6月、サンフランシスコにおいて、国連原加盟国が国連憲章採択のため集合した頃、日本は太平洋における絶望的な戦争のただ中にありました。サンフランシスコ会議から2ヶ月後、世界で初めての原子爆弾が日本の2つの都市に投下され、戦争が終結しました。それから11年後の1956年、日本は生まれ変わった新しい国として国連への加盟を認められました。それ以降、日本は誠実かつ献身的に活動し、主要な外交政策の柱として国連を通した多国間協力を実行してきました。
日本経済の成長とともに、国連への財政的貢献も増大してきました。今日、米国は国連通常予算の22%を負担しています。それに対し、日本の納税者は世界第2位の経済大国の国民として、約20%を負担しています。日本は通常予算及び平和維持活動の費用に関し、安保理常任理事国の英仏露中の合計よりも大きい財政負担を行っているということをご存じでしょうか。私は、日本と国連の間において、かつての敵国が加盟国中第2位の財政貢献を行うに至ったという驚くべき変化が生じていることを強調するためにこの数字に言及しました。
日本は、財政的貢献のみならず、テロリズム対策、大量破壊兵器の拡散防止、貧困撲滅、感染症予防、環境保全など、今日の様々な脅威に対処するためのグローバルな努力において、積極的な活動を行いたいと考えてきました。過去10年間、日本は最大のドナー国として、世界の開発援助の20%近くを負担してきました。憲法の規定により、日本は自らの国際協力を人道支援、開発支援、紛争後の復興支援など、軍事的ではなく民生的な分野に限定してきました。近年、我々は自衛隊の人員や装備を利用しつつ、国連の平和維持活動や紛争後の平和構築ミッションなど、国連によって許可された活動への関与を増大させています。
日本が国連加盟50周年を迎える2006年は我々にとって画期的な年になるでしょう。我々は2006年に、自らのコミットメントと貢献によって国際社会の信頼を勝ち得るとともに、国際社会における地位と影響力を確定する機会となるでしょう。そして、国連が自らの改革を含む様々な課題に対処しようとする中、日本は国連の理想と目標に対し貢献していくとの誓いを新たにするでしょう。
コフィ・アナン国連事務総長は、国連、特に、安保理の改革が今年中に遂行されるよう求めています。我々は事務総長の呼びかけを支持します。国連加盟国は、長年に亘り、国連をより効率的にし、安保理が代表制、透明性をより高めるために、多くの時間、エネルギーと資金を費やしてきました。我々は、今年、加盟国が具体的な行動を取り、決定を行うことによって、これまでの投資を回収すべき時が近づいていると確信しています。
安保理の拡大について、ハイレベル委員会報告書は2つのオプションを提示しました。モデルAは常任と非常任の双方を拡大すること、モデルBは新しい常任理事国を設けませんが、現在の2年よりも長い4年を任期とする再選可能な非常任理事国という新しいカテゴリーを設けることを提案しています。両方のモデルとも安保理を9議席拡大し、理事国の総数を15から24に増やすことを提案しています。15年後の2020年に、安保理の構成を再考することを提案しています。また、いずれも新しい理事国には拒否権を付与しないとしています。
我が国も含め、安保理常任理事国入りを目指す国々は、常任と非常任の双方の拡大を志向しています。この非常に重要な事項に関する議論において、安保理の構成は、1945年ではなく今日の世界の現実を反映しなければならないという意見が広く共有されていると我々は考えています。特に、国際の平和と安全に主要な責任を有するこの重要な機関がより効果的かつ信頼性のあるものになるのであれば、現在の状態は、全ての加盟国の利益のために修正を必要とする時代錯誤であると言えるでしょう。昨年の国連総会における議論においては、加盟国の圧倒的多数を占める166カ国(87%)が安保理改革の必要性に言及しました。また、113カ国(60%)が安保理の常任理事国と非常任理事国の双方の拡大に好意的な見方を示しました。右は、本件に関する加盟国の意見の方向性を明確に示しています。
我々は国連改革、安保理改革に向けて断固とした努力を行います。我々は今年中に改革された安保理の常任理事国となるべく努力します。我々は日本が常任理事国の地位を求めることは適切かつ正当であり、国連や国際社会全体にとっても利益になると信じています。
我々は、日米首脳会談や外相会談などの際に米国政府より、安保理常任理事国のステータスを求める日本の試みは正統なものであるとの意見が表明されていることに感謝します。
米国と緊密な同盟関係にある日本の立場を考慮すれば、安保理常任理事国入りを果たそうとする日本の試みは、マルチラテラリズムを表現する場である国連において、自由や民主主義の拡大といった我々の共通のアジェンダを追求する上で意味のあることです。日本と米国がイラクやアフガニスタンなどの問題に共に対処したことに見られるとおり、日本の常任理事国としての地位が世界の中の日米同盟をさらに強固なものにすると思われます。日本は国際社会の平和と集団安全保障に関わる課題に関し、世界の超大国である米国が負担しうる経験やリソースとは異なるかもしれませんが、国連の理想と目的を追求する上で類のない、価値ある経験とリソースを提供しうると考えます。そして、このことが日米同盟関係、アジアや他の地域における我々の協力に対する肯定的な貢献ではないと考える理由はありません。
2003年の第58回国連総会において、私は、国連が創設60周年を迎える2005年に、国連加盟国の首脳が国連改革について政治的決断をするべきであるとの提案を行いました。私はこの重要な課題が実現するとの希望を持ち続けています。この記念すべき年は真の行動と決断の年にならなくてはいけません。我々は失望してはならず、また、国連がニーズを満たし、理想の実現を支援してくれるとの希望を抱いている世界の何百万という声なき人々を失望させてはなりません。米国と日本には、この崇高な目的のために共に行うべきことがあるのです。
ご静聴ありがとうございました。 |