事務総長年次報告(議題10)に関する総会討議における原口幸市国連大使演説(仮訳)
2004年10月7日
議長
事務総長年次報告は、国連が今日直面する多大かつ広範な課題を、我々に改めて想記させるものです。これらの課題の本質や、今日の国際社会におけるグローバル化の進展と高まる相互依存に鑑みれば、これら課題への集団的解決を導き出す上で、信頼しうる多国間の枠組みを維持する必要性を強く感じます。
本日は、過去1年間の国連の活動を振り返る上で重要と思われるいくつかの点につき触れたいと思います。
議長
まずイラクから始めたいと思います。イラクにおける安定は、中東全体の平和と安定にとって重要です。イラクが可能な限り早く、安定し、民主的で、周囲の諸国と友好的な国として国際社会に復帰できるよう、国際社会が結束して移行プロセスを支援しなければならないと確信します。この取り組みにおいて、国連が主導的な役割を果たしうると信じます。
政治プロセスが、安保理決議1546の定めるタイムテーブルに従って、イラク人自身の手によって進められることが、極めて重要です。この点、最も緊急な課題は、来年1月の移行国民議会選挙を予定どおり実施することです。全ての主要な政治勢力が参加した包括的な選挙が行われるよう、関係者が最大限努力することを強く希望します。また、UNAMIによる独立選挙委員会支援は、公正で信任ある選挙をもたらす上で極めて重要です。事務総長とカジ特別代表が引き続き指導力を発揮することを望みます。
日本は、イラク人によるイラク再建を支援する国際社会の努力に、積極的に参加してきました。日本は50億ドルまでの支援を表明し、着実に実施しています。また、人道復興支援を供与するため、自衛隊をイラクに展開しました。我々は、第3回イラク支援国会合を10月13日及び14日、東京で開催します。この会合は、イラク支援のため国際社会が一致して努力するよう、更にモメンタムを与えるものとなるでしょう。またこの会合においては、選挙支援を含む政治プロセス支援も議題とし、我々の結束を再確認する機会となるでしょう。
アフガニスタンにおいては、10月9日の大統領選挙、及び明年の議会選挙が近づくとともに、ボン・プロセスが最終段階に至りつつあります。アフガニスタンの民主国家としての再生は、これらの選挙にかかっています。これら選挙が公正かつ平和的に実施され、成功することを願っています。
日本は、2002年1月東京で開かれたアフガニスタン復興支援国際会議を主催し、アフガン支援に主要な役割を果たしてきました。「緒方イニシアティヴ」として知られる日本の包括的地域開発プログラムは、人道支援から復興・開発支援への継ぎ目のない移行を目指したものです。我々は、紛争後における平和と人間の安全保障への対処においてモデルとして、このプログラムを実施してきました。
日本は、「元兵士の武装解除、動員解除及び社会復帰」(DDR)プロセスにおいても、国連とともに主導的役割を果たしています。DDRのモメンタムが大統領選挙後も維持されるよう、移行政権の指導者と地方司令官との直接交渉の支援、司令官インセンティヴ・プログラムの実施、社会復帰プログラムの推進等の努力を引き続き行っていきます。
アフガニスタンの再建は、テロとの闘いにおける試金石です。この点から、国際社会にとってアフガン国民への支援を継続することが不可欠です。
議長
一般討論演説において小泉総理は、「アフリカの問題が解決しない限り、世界に安定と繁栄はない」と明確に述べました。実際、国連にとってアフリカの問題は、平和と安定の達成においても、ミレニアム開発目標達成を含む開発の推進においても、深刻な課題です。
スーダンにおいては、スーダン政府及び反政府勢力が、安保理決議1556及び1564に基づき、ダルフールに関する政治的解決に到達することが不可欠です。民兵の武装解除と民間人への攻撃停止等、治安状況を改善するためのあらゆる措置を取ることも重要。不処罰を断ち切るため、大規模な人権侵害や国際人道法違反の責任者を訴追することは緊急の問題です。ダルフール情勢の解決に向けたアフリカ連合(AU)の取り組みを高く評価するとともに、国際社会は引き続きAUの努力に対する支援を行うべきです。
アフリカの平和と安全の問題においては、アフリカ諸国が一層オーナーシップを発揮することが重要と考えます。アフリカの紛争管理能力を向上するため、国際的な支援は必要ですが、アフリカのオーナーシップによる努力が最も重要な要素です。日本は、AUが平和構築においてより建設的な役割を果たせるよう、対話を通じパートナーシップの強化を行っています。
昨年日本は第3回アフリカ開発東京会議(TICADⅢ)を開催しました。1993年TICADプロセスが始まって以来、日本はアフリカに対し広範な支援を行ってきました。平和の定着、経済成長を通じた貧困削減、人間中心の開発は、我々の支援の三本柱です。
アフリカにとって、平和の定着と人間の安全保障の実現は、喫緊かつ重要な課題です。紛争に疲弊した社会は不安定な状況にあり、平和を達成するか、紛争に逆戻りするかの重要な岐路にあります。このような中では、人間の安全保障を推進することにより、平和と確固たる復興の達成が可能となります。日本は人間の安全保障を提唱する国として、個々人の保護とエンパワメントを促進するため、人間の安全保障基金等を通じた支援に強くコミットしています。
議長
持続可能な開発を達成する上で、効果的な防災戦略は鍵となる要素の一つです。自然災害は、長年にわたる開発努力の成果を一瞬にして消し去ってしまうものです。日本は明年1月、神戸において世界防災会議をホストし、その成功にコミットしています。
もう一つの重要なセクターである水と衛生の分野においても、日本は主導的役割を果たしています。実際、日本は過去3年間で飲料水と衛生に対し世界中で供与されたODAの約3分の1を供与しており、現在このセクターにおける世界最大の貢献国です。水と衛生に関する事務総長の諮問委員会において、日本の橋本龍太郎元総理が議長を務めています。日本はこの分野での積極的な関与を続けていきます。
テロ活動は一向に絶えず、子どもを含む無辜の命が犠牲となっています。日本は残虐なテロ行為を強く非難し、これら行為を抑止するための国際協力を強化する必要性を痛感します。我々はテロ対策委員会および対タリバーン、アル・カーイダ制裁委員会の活動を支持し、全面的に協力していきます。
正義と法の支配の実現は、安定した社会の基本的要素です。また、紛争の再発を防ぐ上で、必要な手段でもあります。この点においても、オーナーシップの重要性が強調されるべきです。自国内における正義と法の支配の確立は、それぞれの国に第一義的な責任があります。国連は、この分野での支援を実施する際には、受け入れ国のオーナーシップを尊重し、その国の国民による支持と参加に適切な配慮を行うべきです。
日本は、カンボジア国民議会が、クメール・ルージュ(KR)裁判に関する国連との合意を承認したことを歓迎します。我々は、早急な合意の批准のため、必要な措置が更に取られることを期待します。また、国連が迅速に必要な準備を進めるよう期待します。日本は、KR裁判の実施に向けたカンボジアの努力を支持する上で中心的な役割を果たしており、加盟国に対し、早期に裁判が実現するよう積極的な貢献を行うことを求めます。
我々は、ルワンダ国際刑事裁判所や旧ユーゴ国際刑事裁判所等、アドホックな国際法廷の経験を通じて、国連分担金により運営される法廷の組織は、必要以上に巨大化するとの教訓を得ました。このことから、我々は効率的かつ効果的な国際法廷のあり方を見いだす必要があります。
日本は、急速に拡大する国連通常予算、PKO予算につき一層懸念を深めています。我々の納税者の支持を得るためには、国連は限られたりソースを適切かつ最大限の効率性をもって使用している姿を見せるよう、常に心がけなければなりません。
国連のマネージメントについても触れたいと思います。日本は、分担率はよりバランスの取れたものとなる必要があると考えています。また、もう一つ指摘したいことは、事務局職員の国籍が、地理的に衡平な配分からほど遠いことです。現在の大幅な過小代表の問題は、優先事項として正されなければなりません。
議長
事務総長の年次報告が示すとおり、国連創設60周年は、我々の世界の問題と、国連がいかにこれらに対処しうるかにつき、新たに考えるよい機会となるものです。この関連で、「脅威、課題と変革に関するハイレベル委員会」の作業が予定どおり進捗していることを喜ばしく思います。委員会の報告が、我々の考察に刺激を与えるアイディアを含むことを強く望みます。我々は、新たな脅威や課題に、より効果的に対処しうるような多国間の枠組みとして、「国連新時代」を作り出す必要があるのです。 |