「正義と法の支配―国連の役割」に関する安保理公開討論における原口国連大使演説
2004年10月6日
議長、
アナン事務総長による報告書は、本日のテーマである正義と法の支配について加盟国がより一層考慮すべきことを的確にまとめていると評価します。また、英国がフィンランド他の国々とともに、本件テーマに関するセミナーを開催する等して昨年来議論をリードされてきた努力に謝意を表します。
議長、
我々は今日もなお、多くの地域・国において紛争下及び紛争後の社会の法の支配と移行期における正義を考えなければならないケースに直面しています。我が国は紛争後の不安定な社会における「平和の定着」を重視しています。平和が定着するまでの移行期において正義と法の支配を実現させる努力は非常に重要であるが、我々はまた移行期の社会が非常に脆弱であることも忘れてはならず、そのような社会において、国民がオーナーシップを感じながら正義や法の支配を実現するために何が最善であるかを考えなければなりません。長期的にはキャパシティ・ビルディングが最も重要であり、短期的には種々の要素を配慮し、時にはかなりの柔軟性をもって対応しなければうまくいかない場合もあり得ると考えます。
議長、
このような立場から、我が国としては、アナン事務総長の報告を踏まえながら、重要と考えることを次の三点に絞って指摘したいと思います。
第一に、国連が紛争下及び紛争後の社会における正義と法の支配の実現への支援を行うことと並行して、加盟国自身がまず自国内の正義と法の支配を確立させるための努力を行うことが重要です。国連は、最も普遍的なメンバーシップを持つ場であり、そこで十分な検討を重ねた上で得られる合意の枠組みは、それを実施するにあたり国際社会による十分な協力への期待を可能とするものであり、そのようなプロセスは重要です。また、平時から正義と法の支配を確立させる努力は、紛争の再発を予防する基盤になります。さらに、国連が破綻国家などにおいて活動する場合、また、移行期間に暫定行政を行う場合に、国連自らが法の支配に直接かかわった活動を行うことがありますが、これはあくまでも例外的ケースとして考えられるべきであり、可及的速やかに当該地域の行政機関に主たる責任を移すような努力が払わなければなりません。
第二に、冒頭に述べたように、国連が正義と法の支配を確立すべく支援を行うに当たっては、支援を受け入れる国側の国民の支持と参加を重視しながら実施することが重要です。例えば、東チモールでは、裁判という司法プロセスを通じて過去の重大犯罪を追及することが行われる一方で、真摯に過去の行為を振り返ることによって和解を実現する真実和解委員会の活動が効果を発揮しています。法の支配を確立させるための作業は、犯罪責任者への制裁という観点のみならず、将来における犯罪を抑止し、紛争を予防する役割を果たすと考えます。このような作業の成果を定着させるためには、当該地域の国民が法の支配の重要性に対してオーナーシップを持つことが不可欠であり、そのためには広報活動と教育活動の重要性を見落としてはなりません。
第三は、常設の国際刑事裁判所が本格的に機能するまでのアドホックな国際法廷の問題についてです。最近の国際刑事裁判所(ICC)の設立並びにその活動の重要性について過小評価してはなりませんが、同時にICCが過去に発生した人道的惨禍の全てを解決する万能薬でないことは十分認識されなければなりません。特に、ICCが設立された二〇〇二年より以前に発生した犯罪については各国レベルにてあるいは国際協力を通じて対処しなければなりません。この関連で、紛争直後の社会や国家が自ら適切に対応できない場合、国際社会は国際人道法に関する重大な罪を犯した者を起訴し、また紛争後の秩序形成、普遍的な正義を実現することを目標として、旧ユーゴ国際刑事裁判所(ICTY)、ルワンダ国際刑事裁判所(ICTR)、シエラ・レオネ特別法廷等の法廷を設置しました。また、カンボジアにおいては、国内裁判所に国連が協力する形でのクメール・ルージュ・リーダー達を裁く特別法廷の実現を目指しています。このうちICTY及びICTRの運営から我々が得た教訓の一つは、分担金により運営される法廷の組織は必要以上に巨大化したことです。国際社会は、効率的かつ効果的な国際法廷の在り方を検討する必要に迫られています。我が国としては、安保理が認めた完了戦略が履行されることによって効率的かつ効果的に所期の目的が達成されるようICTYとICTRの活動を引き続き注意深く監視していきます。なお、我が国は、クメール・ルージュ裁判特別法廷について、国際社会の支援を得て、同法廷が早期に実現するよう働きかけてきており、今般カンボジア政府と国連との合意文書がカンボジア国民議会により承認されたことを歓迎します。我が国としては、本合意文書の迅速な批准に向けた更なる手続が取られることを期待します。この裁判を実現することは、カンボジアにおける正義の実現と法の支配の確立に向けた重要な一歩であり、加盟各国がこの裁判の成功のために応分の協力を行うことを強く求めたいと思います。
議長、
紛争後の社会に正義と法の支配を確立するためには、国際社会の支援が、治安、教育、復興、和解といった平和の定着にとって欠かすことのできない要素を包括的に含んだ形で行われることが重要です。私は、本年1月、紛争後の国民的和解に関する公開討論の際に、国連が紛争後の不安定な社会に平和を定着させるに当たって過去の成功例を検討し、問題点及び教訓を探し出すことを提案しました。私は、アナン事務総長が、今次報告の中で正義と法の支配に関するベスト・プラクティス集の編纂の必要性を指摘していることに注目しており、これをぜひ実現していただきたいと思います。さらにアナン事務総長は、紛争下及び紛争後の法の支配と移行期における正義への国連の支援を強化するために、平和と安全に関するエグゼクティヴ委員会に必要な具体的行動に関する提案を出すように求めており、我が国としてもその成果を期待しています。
有り難うございました。 |