2004年

 
 

武力紛争下の文民保護に関する安保理公開討論における原口国連大使演説(仮訳)

2004年6月14日

議長、

 本日の武力紛争下の文民保護に関する公開討論の開催にあたっての議長の指導力を多とします。また、10項目の行動計画の策定やラウンド・テーブルの開催などの事務局の努力を評価します。事務総長報告が言及している具体例が明らかにしているように、文民に脅威を与える武力紛争の原因、主体、形態は千差万別です。まず、伝統的な国家間紛争ではなく様々な原因による内戦が増加しています。更に、国際組織犯罪やテロリストも文民の生命を脅かしますが、そのような場合そもそも武力紛争と言えるかが問題となります。武力紛争-あるいはより中立的に文民に脅威を与える事態-はこのように多様であり、例えば脅威を与えている主体との人道目的の交渉といった問題についても、実際に国土の一定面積を支配している反政府組織を相手にするときと、いわゆるテロリストを相手にするときでは、考慮すべき要素が全く異なるでしょう。従って、全ての事態に適用可能な文民保護に関する一般的抽象的ルール作りに必要以上に時間を割くより、個々の経験を踏まえた上で文民保護に効果を発揮したベスト・プラクティスを積み上げるアプローチの方が適当とも考えられます。

 安保理においては、このような考え方を念頭に置きつつ、安保理が本来果たすべき役割や能力を踏まえた議論が行われることを期待します。安保理は国際社会の平和と安全の維持及び回復のために主要な責任を有する措置を取る機関ですが、安保理が文民が脅威を受けている全ての状況について対応できるわけではないことは率直に認めなければなりません。文民保護のためには、ニューヨークにおいては安保理と総会や経社理などの他のフォーラムとの連携が必要です。現場において活動している全ての関係国際機関との連携も重要です。また、事務総長報告にも繰り返し触れられていますが、文民保護に対する地域的アプローチの必要性と地域機関の役割の重要性について日本は意を同じくします。

第一に、引き続き発生するテロ事件に鑑みて、テロリストがテロを実施するために必要な資金源や武器の取得源を断ち切ることが重要です。さらに、各国が渡航禁止措置を含む効果的な国境管理政策を講じることが重要です。これらの措置は、アル・カーイダの主要指導者のみならず、国際的な捜索の手を逃れている新世代のアル・カーイダや復活したタリバーンの分子が、テロの目的を達成すべく世界中を自由に行き来することを防ぐために必要なものです。その観点から、本制裁委員会が編纂する包括制裁対象者リストへの各国からの情報提供が進み、各国がより充実したリストを活用できるようになることを強く望みます。最近、包括制裁対象者リストに氏名が掲載されているアル・カーイダのメンバーであるテロリストがドイツで逮捕されました。逮捕後の捜査により、同人物が我が国において一定期間、別称を用いて活動していたことが明らかとなりました。これにより、我が国では本リストへの関心が改めて喚起されています。我が国は、本リストを更に充実させるべく、関係国と協力して、このテロリストの別称を追加登録する所存です。また、本制裁委員会が、各国が制裁措置をとるに当たっての技術支援等の在り方について具体的に検討することをめざし、安保理メンバー国以外の国や対テロ委員会(CTC)をはじめとする他の専門性を有する機関とより緊密に連携することが必要と考えます。

議長、

 次に、事務総長報告にある10項目の行動計画のうち、本日は時間の制約もあり、特に我が国として関心のある4点について意見を述べます。

 第一に、人道支援要員の安全についてですが、円滑な人道支援活動の実施のためには人道支援要員自身の安全が確保されることが重要であることは言うまでもありません。人道要員はその中立性をもって安全が確保されることが原則ですが、昨今の人道要員への意図的な攻撃の発生を深く憂慮します。人道支援活動の目的を果たすため、PKOのマンデートに人道支援要員の保護を含めることを支持します。ただし、PKOが展開している地域における人道支援要員の安全にいったい誰が責任を負っているのか-国連安全調整官事務所なのかPKO局なのか-現状は必ずしも明確ではありません。我が国としては、事務総長が第59回総会に提出する国連の安全に関する報告書において包括的な解決策が提示されることを期待しています。

 人道支援要員の安全を確保するための特効薬は即座には思いつきませんが、国際社会が一致して人道支援活動に対する支持を再確認するとともに、人道支援要員の安全を脅かすいかなる攻撃に対しても、これを厳しく非難すべきです。また、人道支援活動が国際社会の一部の手先であるかのような誤ったイメージを払拭するために、公平性や独立性といった人道支援活動が遵守すべき原則を再確認すべきです。法的措置としては、国連要員安全条約の法的保護範囲の拡大に我が国として積極的に貢献していきます。

 第二に、小型武器です。小型武器が十分に管理されないまま流布していることが文民の被害を著しく大きなものとしています。従って、その一層厳格な管理は重要です。2001年には小型武器非合法取引防止に向けた行動計画が採択されましたが、国際社会において小型武器に対する関心を高めるのみならず、小型武器の影響を受けている地域において実際の行動を起こすことが強く求められています。国際社会が同行動計画の着実な実施に向けて努めていくことが大変重要です。また、我が国としては武器禁輸措置違反に対する安保理のモニタリング強化も必要と考えます。本年1月にソマリア武器禁輸に関するモニタリング・グループが設置されたことを歓迎します。安保理として、このようなグループの新規設置、あるいは既に設置されているグループの作業強化を検討することを期待します。また、CASA(小型武器調整行動ユニット)を含む軍縮局による取り組みの強化を支持します。安保理は軍縮局との意見交換を推進し、同局の知見を一層活用することを期待します。また、我が国は、「平和の定着」の観点から、カンボディア等において小型武器の回収と開発を組み合わせたプロジェクトを実施し、そもそも小型武器を保持する理由を除去することを目指した取り組みを行っています。

 第三に、難民と国内避難民の定着促進は、紛争下の文民保護の重要な要素です。難民や国内避難民にとって安全な帰還は再定住に向けた第一歩にすぎません。難民や国内避難民を再発させない真の解決のためには、難民や国内避難民が地域社会にとけ込み、復興の一端を担うことが欠かせません。このような観点から、人道支援と復興支援の継ぎ目ない移行がきわめて重要であり、経社理で「移行」(transition)に関するイベントを開催することを歓迎します。

 第四に、DDRRです。日本は「平和の定着」の観点からDDRRを重視しており、DDRRのような平和構築活動とPKOとのつながりが重要であることも理解しています。他方、PKOは平和構築の名の下に無制限に拡大されるべきではないと考えます。平和構築は復興開発につながることが期待されており、そこで求められるのはPKOとは別の専門知識・能力です。SRSGの権限は調整的なものであることが望ましいと考えます。

議長、

事務総長報告は最後に文民保護と平和構築プロセスとの関係に言及しています。効果的な文民保護のためには、脅威の原因となる紛争を予防し、その再発を防止する努力も欠かせません。日本はかねてより人間の安全保障信託基金等による援助を通じて個々人の保護とエンパワーメントを促進する人間の安全保障の重要性を強調してきました。停戦合意によって紛争の終結が得られても、これは持続する平和に向けた契機が得られたにすぎません。紛争に疲弊した社会は不安定な状況にあり、平和を達成するか、紛争に逆戻りするかの重要な岐路にあります。そのような中で、平和と確固たる復興を達成するために、人間の安全保障を促進することが重要です。人間の安全保障の考え方が、国連システムの中で一層普遍化することを期待しています。

(了)

   
配している反政府組織を相手にするときと、いわゆるテロリストを相手にするときでは、考慮すべき要素が全く異なるでしょう。従って、全ての事態に適用可能な文民保護に関する一般的抽象的ルール作りに必要以上に時間を割くより、個々の経験を踏まえた上で文民保護に効果を発揮したベスト・プラクティスを積み上げるアプローチの方が適当とも考えられます。

 安保理においては、このような考え方を念頭に置きつつ、安保理が本来果たすべき役割や能力を踏まえた議論が行われることを期待します。安保理は国際社会の平和と安全の維持及び回復のために主要な責任を有する措置を取る機関ですが、安保理が文民が脅威を受けている全ての状況について対応できるわけではないことは率直に認めなければなりません。文民保護のためには、ニューヨークにおいては安保理と総会や経社理などの他のフォーラムとの連携が必要です。現場において活動している全ての関係国際機関との連携も重要です。また、事務総長報告にも繰り返し触れられていますが、文民保護に対する地域的アプローチの必要性と地域機関の役割の重要性について日本は意を同じくします。

第一に、引き続き発生するテロ事件に鑑みて、テロリストがテロを実施するために必要な資金源や武器の取得源を断ち切ることが重要です。さらに、各国が渡航禁止措置を含む効果的な国境管理政策を講じることが重要です。これらの措置は、アル・カーイダの主要指導者のみならず、国際的な捜索の手を逃れている新世代のアル・カーイダや復活したタリバーンの分子が、テロの目的を達成すべく世界中を自由に行き来することを防ぐために必要なものです。その観点から、本制裁委員会が編纂する包括制裁対象者リストへの各国からの情報提供が進み、各国がより充実したリストを活用できるようになることを強く望みます。最近、包括制裁対象者リストに氏名が掲載されているアル・カーイダのメンバーであるテロリストがドイツで逮捕されました。逮捕後の捜査により、同人物が我が国において一定期間、別称を用いて活動していたことが明らかとなりました。これにより、我が国では本リストへの関心が改めて喚起されています。我が国は、本リストを更に充実させるべく、関係国と協力して、このテロリストの別称を追加登録する所存です。また、本制裁委員会が、各国が制裁措置をとるに当たっての技術支援等の在り方について具体的に検討することをめざし、安保理メンバー国以外の国や対テロ委員会(CTC)をはじめとする他の専門性を有する機関とより緊密に連携することが必要と考えます。

議長、

 次に、事務総長報告にある10項目の行動計画のうち、本日は時間の制約もあり、特に我が国として関心のある4点について意見を述べます。

 第一に、人道支援要員の安全についてですが、円滑な人道支援活動の実施のためには人道支援要員自身の安全が確保されることが重要であることは言うまでもありません。人道要員はその中立性をもって安全が確保されることが原則ですが、昨今の人道要員への意図的な攻撃の発生を深く憂慮します。人道支援活動の目的を果たすため、PKOのマンデートに人道支援要員の保護を含めることを支持します。ただし、PKOが展開している地域における人道支援要員の安全にいったい誰が責任を負っているのか-国連安全調整官事務所なのかPKO局なのか-現状は必ずしも明確ではありません。我が国としては、事務総長が第59回総会に提出する国連の安全に関する報告書において包括的な解決策が提示されることを期待しています。

 人道支援要員の安全を確保するための特効薬は即座には思いつきませんが、国際社会が一致して人道支援活動に対する支持を再確認するとともに、人道支援要員の安全を脅かすいかなる攻撃に対しても、これを厳しく非難すべきです。また、人道支援活動が国際社会の一部の手先であるかのような誤ったイメージを払拭するために、公平性や独立性といった人道支援活動が遵守すべき原則を再確認すべきです。法的措置としては、国連要員安全条約の法的保護範囲の拡大に我が国として積極的に貢献していきます。

 第二に、小型武器です。小型武器が十分に管理されないまま流布していることが文民の被害を著しく大きなものとしています。従って、その一層厳格な管理は重要です。2001年には小型武器非合法取引防止に向けた行動計画が採択されましたが、国際社会において小型武器に対する関心を高めるのみならず、小型武器の影響を受けている地域において実際の行動を起こすことが強く求められています。国際社会が同行動計画の着実な実施に向けて努めていくことが大変重要です。また、我が国としては武器禁輸措置違反に対する安保理のモニタリング強化も必要と考えます。本年1月にソマリア武器禁輸に関するモニタリング・グループが設置されたことを歓迎します。安保理として、このようなグループの新規設置、あるいは既に設置されているグループの作業強化を検討することを期待します。また、CASA(小型武器調整行動ユニット)を含む軍縮局による取り組みの強化を支持します。安保理は軍縮局との意見交換を推進し、同局の知見を一層活用することを期待します。また、我が国は、「平和の定着」の観点から、カンボディア等において小型武器の回収と開発を組み合わせたプロジェクトを実施し、そもそも小型武器を保持する理由を除去することを目指した取り組みを行っています。

 第三に、難民と国内避難民の定着促進は、紛争下の文民保護の重要な要素です。難民や国内避難民にとって安全な帰還は再定住に向けた第一歩にすぎません。難民や国内避難民を再発させない真の解決のためには、難民や国内避難民が地域社会にとけ込み、復興の一端を担うことが欠かせません。このような観点から、人道支援と復興支援の継ぎ目ない移行がきわめて重要であり、経社理で「移行」(transition)に関するイベントを開催することを歓迎します。

 第四に、DDRRです。日本は「平和の定着」の観点からDDRRを重視しており、DDRRのような平和構築活動とPKOとのつながりが重要であることも理解しています。他方、PKOは平和構築の名の下に無制限に拡大されるべきではないと考えます。平和構築は復興開発につながることが期待されており、そこで求められるのはPKOとは別の専門知識・能力です。SRSGの権限は調整的なものであることが望ましいと考えます。

議長、

事務総長報告は最後に文民保護と平和構築プロセスとの関係に言及しています。効果的な文民保護のためには、脅威の原因となる紛争を予防し、その再発を防止する努力も欠かせません。日本はかねてより人間の安全保障信託基金等による援助を通じて個々人の保護とエンパワーメントを促進する人間の安全保障の重要性を強調してきました。停戦合意によって紛争の終結が得られても、これは持続する平和に向けた契機が得られたにすぎません。紛争に疲弊した社会は不安定な状況にあり、平和を達成するか、紛争に逆戻りするかの重要な岐路にあります。そのような中で、平和と確固たる復興を達成するために、人間の安全保障を促進することが重要です。人間の安全保障の考え方が、国連システムの中で一層普遍化することを期待しています。

(了)