2004年

 
 

「紛争後の国民的和解・国連の役割」に係る安保理公開会合における原口国連大使演説(仮訳)

2004年1月26日

議長、

本日の公開会合の開催を感謝します。紛争終了後の国民的和解については、国連の場において今まで十分な議論がなされて来ませんでした。我が国においても、この和解の在り方について未だ確固たる見解を固めたわけでもなく、むしろ、未だ検討の途上です。しかしながら、和解は、紛争後の不安定な社会における「平和の定着」を実現するために不可欠であり、また、「平和の定着」は、我が国が推進している「人間の安全保障」の極めて重要な要素であると考えます。我が国としては、本日のこの議論を通じ、ポストコンフリクトにおける和解の成功へ向けたプロセスの在り方及びその過程における国際社会と国連の役割について、議論が深められることを希望します。

議長、

和解は心理的な側面を含むものであり、その達成は容易ではありません。真実が明らかにならなければ和解の基礎はできない一方で、真実が明らかになっても憎しみは消えないという側面もあり得ると考えます。憎しみは、長い年月をかけて乗り越えていくという解答しかない場合もあり得ると考えられます。特に、千差万別の背景を持つ個人レベルの憎しみについて、その解決方法を国連の場で議論することは実際的ではないと考えます。その関連で、議長が本日の議題として「国民的和解」と指定されたことは大変に賢明な提案であると考えます。国民的和解に関して言えば、紛争後の不安定な社会における和解を促進するために国際社会或いは国連としてなし得る貢献、なすべき支援の分野が存在すると考えられるからです。

一つ目は、正義の回復です。紛争当時における重大な人道犯罪を法に基づいて裁くことは、当然和解促進に貢献しますし、将来における類似の人道犯罪の再発を予防する上でも重要です。しかし、同時に、その裁判が長い時間をかけて行われる場合、その間、和解は進展しないという問題点にも留意する必要があります。我が国としては、速やかな「平和の定着」のために和解の早期達成が必要とされる場合が多いこと、また、人々が過去と折り合いをつけ、信頼関係を構築するためには、厳しく処罰することと、全てを許すこととの間に様々な態様があり得るということを指摘したいと考えます。紛争後の不安定かつ過渡的な局面にある国は、自らにとって最も適切な方法を選択することが重要なのです。第3者が考える「正義」の適用を厳しく求めることは、和解の達成に役に立たないこともある点に注意が必要です。

本日の議題に関しては、具体的な事例に基づいて考えることも有益です。南アフリカにおいては、真実の告白、恩赦の付与及び被害者への賠償とを組み合わせることにより、国民和解が成功裡に進捗しました。また、東ティモールの真実和解委員会においては、加害者側の「公的な謝罪」と公共活動への従事が、最終的に被害者側に受け入れられ、コミュニティレベルにおける正義の回復と和解を促進したと考えられます。いずれも、当該地域の人々の知恵に基づいて、苦い真実の発見を通じ、正義の回復と国民的和解の促進が効率的に実施し得ることを示しています。

第2に、差別及び社会的不正義を撤廃することが重要です。社会の一部が「社会的不正義」を認識するような状況は時として紛争を産み、また、このような状況が継続している場合は、「和解」の定着は困難です。多様な民族・文化が共存できる社会の構築のためには、普遍的価値である基本的人権の促進を通じて、それらの間での不当な差別の撤廃が極めて重要です。この面において国際社会の支援は可能ですが、他方で、一旦は紛争に関与した両者が共通に受け入れることができる「平等」を定義することは簡単ではありません。我が国は、紛争当事者自らが、時間をかけ、冷静な議論とその成功を積み重ねることが最も重要であり、また、国際社会は、そのような議論を可能とする枠組み作り、例えば「対話」の実現を支援すべきであると考えます。例えばコソボにおいて、UNMIK及び暫定自治統治諸機構の努力により、少数民族に対して支出される予算面での配慮がなされていますが、これは少数民族の側から見ての社会的不正義を減少させるものであり歓迎します。また、ベルグラードとプリシュティナ間の直接対話を進展させる試みも、「共存」へ向けた必要かつ適切な試みであると考えます。

第3に、経済社会開発の重要性について指摘したいと思います。紛争の発生した地域は、しばしば、同時に貧困による困窮状況にあります。そして生活上の経済社会的困難の継続は、時として人々に「社会的不正義」を認識させ、或いはその社会的不正義の原因と考える人々への憎しみを強くさせます。人々が自分たちの生活の将来に期待を持てる状況を作り出すことが、「和解」を担保するため極めて効果的な手段であると考えます。復興が実現していくという確信を持つことが和解をより進捗させると考えます。

議長、

紛争終了後の過渡的な局面における国民的和解、正義、真実と復興の関係は極めて複雑であり、個別ケース毎に最適な組み合わせが異なるように思われます。これまで国連の場では、正義と復興の問題は多く議論されてきましたが、和解をも含めて議論してこそ、紛争後の不安定な社会における平和定着という極めて重要な問題を全体として捉えることができるのであろうと考えます。

議長、

最後に、私は、国連が今後過去の成功例を検討し、問題点及び教訓を探し出すことを提案したいと思います。かかる作業は、本議論を更に深める上できっと役に立つと考えます。

有り難うございました。

   
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2004年

 
 

「紛争後の国民的和解・国連の役割」に係る安保理公開会合における原口国連大使演説(仮訳)

2004年1月26日

議長、

本日の公開会合の開催を感謝します。紛争終了後の国民的和解については、国連の場において今まで十分な議論がなされて来ませんでした。我が国においても、この和解の在り方について未だ確固たる見解を固めたわけでもなく、むしろ、未だ検討の途上です。しかしながら、和解は、紛争後の不安定な社会における「平和の定着」を実現するために不可欠であり、また、「平和の定着」は、我が国が推進している「人間の安全保障」の極めて重要な要素であると考えます。我が国としては、本日のこの議論を通じ、ポストコンフリクトにおける和解の成功へ向けたプロセスの在り方及びその過程における国際社会と国連の役割について、議論が深められることを希望します。

議長、

和解は心理的な側面を含むものであり、その達成は容易ではありません。真実が明らかにならなければ和解の基礎はできない一方で、真実が明らかになっても憎しみは消えないという側面もあり得ると考えます。憎しみは、長い年月をかけて乗り越えていくという解答しかない場合もあり得ると考えられます。特に、千差万別の背景を持つ個人レベルの憎しみについて、その解決方法を国連の場で議論することは実際的ではないと考えます。その関連で、議長が本日の議題として「国民的和解」と指定されたことは大変に賢明な提案であると考えます。国民的和解に関して言えば、紛争後の不安定な社会における和解を促進するために国際社会或いは国連としてなし得る貢献、なすべき支援の分野が存在すると考えられるからです。

一つ目は、正義の回復です。紛争当時における重大な人道犯罪を法に基づいて裁くことは、当然和解促進に貢献しますし、将来における類似の人道犯罪の再発を予防する上でも重要です。しかし、同時に、その裁判が長い時間をかけて行われる場合、その間、和解は進展しないという問題点にも留意する必要があります。我が国としては、速やかな「平和の定着」のために和解の早期達成が必要とされる場合が多いこと、また、人々が過去と折り合いをつけ、信頼関係を構築するためには、厳しく処罰することと、全てを許すこととの間に様々な態様があり得るということを指摘したいと考えます。紛争後の不安定かつ過渡的な局面にある国は、自らにとって最も適切な方法を選択することが重要なのです。第3者が考える「正義」の適用を厳しく求めることは、和解の達成に役に立たないこともある点に注意が必要です。

本日の議題に関しては、具体的な事例に基づいて考えることも有益です。南アフリカにおいては、真実の告白、恩赦の付与及び被害者への賠償とを組み合わせることにより、国民和解が成功裡に進捗しました。また、東ティモールの真実和解委員会においては、加害者側の「公的な謝罪」と公共活動への従事が、最終的に被害者側に受け入れられ、コミュニティレベルにおける正義の回復と和解を促進したと考えられます。いずれも、当該地域の人々の知恵に基づいて、苦い真実の発見を通じ、正義の回復と国民的和解の促進が効率的に実施し得ることを示しています。

第2に、差別及び社会的不正義を撤廃することが重要です。社会の一部が「社会的不正義」を認識するような状況は時として紛争を産み、また、このような状況が継続している場合は、「和解」の定着は困難です。多様な民族・文化が共存できる社会の構築のためには、普遍的価値である基本的人権の促進を通じて、それらの間での不当な差別の撤廃が極めて重要です。この面において国際社会の支援は可能ですが、他方で、一旦は紛争に関与した両者が共通に受け入れることができる「平等」を定義することは簡単ではありません。我が国は、紛争当事者自らが、時間をかけ、冷静な議論とその成功を積み重ねることが最も重要であり、また、国際社会は、そのような議論を可能とする枠組み作り、例えば「対話」の実現を支援すべきであると考えます。例えばコソボにおいて、UNMIK及び暫定自治統治諸機構の努力により、少数民族に対して支出される予算面での配慮がなされていますが、これは少数民族の側から見ての社会的不正義を減少させるものであり歓迎します。また、ベルグラードとプリシュティナ間の直接対話を進展させる試みも、「共存」へ向けた必要かつ適切な試みであると考えます。

第3に、経済社会開発の重要性について指摘したいと思います。紛争の発生した地域は、しばしば、同時に貧困による困窮状況にあります。そして生活上の経済社会的困難の継続は、時として人々に「社会的不正義」を認識させ、或いはその社会的不正義の原因と考える人々への憎しみを強くさせます。人々が自分たちの生活の将来に期待を持てる状況を作り出すことが、「和解」を担保するため極めて効果的な手段であると考えます。復興が実現していくという確信を持つことが和解をより進捗させると考えます。

議長、

紛争終了後の過渡的な局面における国民的和解、正義、真実と復興の関係は極めて複雑であり、個別ケース毎に最適な組み合わせが異なるように思われます。これまで国連の場では、正義と復興の問題は多く議論されてきましたが、和解をも含めて議論してこそ、紛争後の不安定な社会における平和定着という極めて重要な問題を全体として捉えることができるのであろうと考えます。

議長、

最後に、私は、国連が今後過去の成功例を検討し、問題点及び教訓を探し出すことを提案したいと思います。かかる作業は、本議論を更に深める上できっと役に立つと考えます。

有り難うございました。