2003年

 
 

安全保障理事会「紛争下の文民保護」公開討論における原口常駐代表演説(仮訳)

2003年12月9日

議長、

全ての加盟国にとって大きな懸念である紛争下の文民保護について、公開討論を開催するとの安全保障理事会の決定を歓迎します。エイド・メモワールやロードマップを改訂した人道支援調整事務所(OCHA)の活動を推賞いたします。また、この機会を利用して、同僚の日本人外交官2名を含むイラクにおける外国人、イラク人、国際要員及びコアリション要員に対する攻撃を非難する内容の、安保理議長が昨日発出した対プレス声明を歓迎したいと思います。

いかなる状況においても、文民は故意の攻撃の対象となることから守られるべきとの考えをわが国も共有しています。守る術を持たない無防備な文民、特に子供や女性に対する攻撃は恥ずべき、野蛮で卑怯な行為です。このような攻撃は社会の基本構造を破壊し、敵意と相互不信を醸成し、紛争後の共同体を復旧する機会を修復困難にするほど傷つけるものです。文民に対するあらゆる攻撃は厳しく非難されねばならず、加害者は国際法に則って裁かれなければなりません。

武力紛争下の文民の保護は人間の安全保障のアプローチが不可欠な分野でもあります。人間の安全保障委員会の報告書が指摘するように、人間の安全保障は安全保障のアジェンダの中におかれ、人道活動は強化されるべきです。これらは向上すべき2つの重要な政策なのです。日本は、この分野で人間の安全保障を促進するために様々な関係者と密接に協力していきます。

議長、

エイド・メモワールは文民保護を考える上で重要な道具ですが、文民に対する脅威が多様で複雑なために、我々の努力の焦点を絞ることが困難なようにも見えます。しかしながら、一見複雑に見える状況を前にして、いたずらに混乱に陥るべきではありません。文民への脅威の原因とその形態や期間を議論することによって、武力紛争下の文民保護において我々が直面する挑戦と課題について一層明確な描写を行ってみたいと思います。

第一に、脅威の原因とこれへの取り組みについて話したいと思います。最近、主権国家同士の伝統的な戦争という形態の武力紛争は減ってきていますが、一方で政府と反乱グループ、ないし非政府主体同士が国境内において、あるいは時々国境を越えて武力紛争を行うケースが懸念すべき速度で増大しているとの事態に直面しています。このような紛争は、部族や民族、宗教上の制度の違いといった事由に基づく激しい敵意によってしばしば引き起こされます。そのような場合、対立はきわめて強烈で、たくさんの文民が犠牲者となりがちです。このような状況の武力紛争の真っ只中で文民を保護するためには、武力グループの関与が求められます。多くの場合、これは事務総長特別代表や緊急援助調整官といった中立的な関係者によってのみ可能となります。これらの関係者は武力グループと直接対話をし、文民保護の必要性と国際法に基づいて文民を保護しなければならない責任を思い起こさせることができる、数少ない人なのです。

このような対話は国内事項に対する干渉として疑いの目で見られることがありますが、特に国家当局が文民の保護に失敗するか、そのために限られた能職しかない場合には、国家主権への挑戦と受け止められるべきではありません。武力グループとの直接対話は、現実には国家主権を補完する努力と見られるべきものなのです。

第二に、脅威の形態に移りたいと思います。物理的な被害から文民を保護するだけでは十分ではありません。彼らの人間としての尊厳もまた守られなければなりません。武力紛争の結果きわめて貧しい状況におかれたままでは、脆弱な文民は人間としての尊厳を取り戻すことはできません。極端な貧困や飢え、命にかかわる病気についての恐怖から自由となり、生活していけるようになる必要があります。共同体の建設的な構成員となれるような能力を持てるようになる必要もあります。そのような必要性を満たすために、人道・復旧支援は重要な役割を果たします。しかしながら、支援を必要とする人々へのアクセスや援助要員の安全が守られるための手立てが講じられなければ、援助関係者は活動を行うことができません。武力グループとの直接対話を含む国際社会の共同努力によって、こうしたことを確保することが重要です。現行の国連要員安全条約の保護の範囲について、対象を明確にした上で拡大する議論をさらに活性化していくべきではないでしょうか。

第三に、脅威の期間についてですが、主要な戦闘が終結した後にも文民がしばしば危険にさらされるという事実を認識しなければなりません。紛争中と紛争後といった、若干人為的な区別で誤解に陥ってはなりません。いわゆる紛争後の状況は不安定なままで、慎重な手立てと注意が払われなければ、紛争中の状況に逆戻りしてしまう可能性も大きいのです。社会の安定の回復が永続する文民保護にとって不可欠です。そのためには、社会に広く出回っている武器を回収・廃棄し、戦闘員の動員解除を進めるとともに、通常の文民として社会に統合させ社会復帰させる、いわゆるDDRRプロセスが極めて重要になります。また、公平で信頼にたる警察や他の法執行システムの復興も不可欠です。真の国民和解と復活のためには、国際人道法、国際人権法や国際刑事法の重大な侵害者の不処罰に終止符を打つことも重要です。

議長、

紛争下の文民保護は、国連システムの様々な機関が相互に、また加盟国やNGOとも調整・協力しながら取り組まなければならない課題です。そのような文脈で、この問題に取り組むために安全保障理事会が経済社会理事会と合同会議を持つことも検討すべきかもしれません。国連事務局内の各部署の調整も強化され、引き続き見直される必要があります。そのような観点から、エイド・メモワールを反映するために、PKO局とOCHAの調整が向上していることを歓迎します。複雑な緊急事態への対応を企画するにあたって、エイド・メモワールにしかるべき配慮があらゆる段階で払われる必要があります。

紛争下の文民保護は新しい課題ではありませんが、ロードマップが示すように実施しなければならない数多くの課題が依然としてあります。長く続きながら国際的関心を集めなかった危機の中で、多くの文民が犠牲になっている事実を忘れてはなりません。日本は、武力紛争下の文民保護に取り組むにあたって直面する多くの挑戦によりよく立ち向かうことに貢献する更なる議論を歓迎します。

ありがとうございました。

   
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2003年

   

安全保障理事会「紛争下の文民保護」公開討論における原口常駐代表演説(仮訳)

2003年12月9日

議長、

全ての加盟国にとって大きな懸念である紛争下の文民保護について、公開討論を開催するとの安全保障理事会の決定を歓迎します。エイド・メモワールやロードマップを改訂した人道支援調整事務所(OCHA)の活動を推賞いたします。また、この機会を利用して、同僚の日本人外交官2名を含むイラクにおける外国人、イラク人、国際要員及びコアリション要員に対する攻撃を非難する内容の、安保理議長が昨日発出した対プレス声明を歓迎したいと思います。

いかなる状況においても、文民は故意の攻撃の対象となることから守られるべきとの考えをわが国も共有しています。守る術を持たない無防備な文民、特に子供や女性に対する攻撃は恥ずべき、野蛮で卑怯な行為です。このような攻撃は社会の基本構造を破壊し、敵意と相互不信を醸成し、紛争後の共同体を復旧する機会を修復困難にするほど傷つけるものです。文民に対するあらゆる攻撃は厳しく非難されねばならず、加害者は国際法に則って裁かれなければなりません。

武力紛争下の文民の保護は人間の安全保障のアプローチが不可欠な分野でもあります。人間の安全保障委員会の報告書が指摘するように、人間の安全保障は安全保障のアジェンダの中におかれ、人道活動は強化されるべきです。これらは向上すべき2つの重要な政策なのです。日本は、この分野で人間の安全保障を促進するために様々な関係者と密接に協力していきます。

議長、

エイド・メモワールは文民保護を考える上で重要な道具ですが、文民に対する脅威が多様で複雑なために、我々の努力の焦点を絞ることが困難なようにも見えます。しかしながら、一見複雑に見える状況を前にして、いたずらに混乱に陥るべきではありません。文民への脅威の原因とその形態や期間を議論することによって、武力紛争下の文民保護において我々が直面する挑戦と課題について一層明確な描写を行ってみたいと思います。

第一に、脅威の原因とこれへの取り組みについて話したいと思います。最近、主権国家同士の伝統的な戦争という形態の武力紛争は減ってきていますが、一方で政府と反乱グループ、ないし非政府主体同士が国境内において、あるいは時々国境を越えて武力紛争を行うケースが懸念すべき速度で増大しているとの事態に直面しています。このような紛争は、部族や民族、宗教上の制度の違いといった事由に基づく激しい敵意によってしばしば引き起こされます。そのような場合、対立はきわめて強烈で、たくさんの文民が犠牲者となりがちです。このような状況の武力紛争の真っ只中で文民を保護するためには、武力グループの関与が求められます。多くの場合、これは事務総長特別代表や緊急援助調整官といった中立的な関係者によってのみ可能となります。これらの関係者は武力グループと直接対話をし、文民保護の必要性と国際法に基づいて文民を保護しなければならない責任を思い起こさせることができる、数少ない人なのです。

このような対話は国内事項に対する干渉として疑いの目で見られることがありますが、特に国家当局が文民の保護に失敗するか、そのために限られた能職しかない場合には、国家主権への挑戦と受け止められるべきではありません。武力グループとの直接対話は、現実には国家主権を補完する努力と見られるべきものなのです。

第二に、脅威の形態に移りたいと思います。物理的な被害から文民を保護するだけでは十分ではありません。彼らの人間としての尊厳もまた守られなければなりません。武力紛争の結果きわめて貧しい状況におかれたままでは、脆弱な文民は人間としての尊厳を取り戻すことはできません。極端な貧困や飢え、命にかかわる病気についての恐怖から自由となり、生活していけるようになる必要があります。共同体の建設的な構成員となれるような能力を持てるようになる必要もあります。そのような必要性を満たすために、人道・復旧支援は重要な役割を果たします。しかしながら、支援を必要とする人々へのアクセスや援助要員の安全が守られるための手立てが講じられなければ、援助関係者は活動を行うことができません。武力グループとの直接対話を含む国際社会の共同努力によって、こうしたことを確保することが重要です。現行の国連要員安全条約の保護の範囲について、対象を明確にした上で拡大する議論をさらに活性化していくべきではないでしょうか。

第三に、脅威の期間についてですが、主要な戦闘が終結した後にも文民がしばしば危険にさらされるという事実を認識しなければなりません。紛争中と紛争後といった、若干人為的な区別で誤解に陥ってはなりません。いわゆる紛争後の状況は不安定なままで、慎重な手立てと注意が払われなければ、紛争中の状況に逆戻りしてしまう可能性も大きいのです。社会の安定の回復が永続する文民保護にとって不可欠です。そのためには、社会に広く出回っている武器を回収・廃棄し、戦闘員の動員解除を進めるとともに、通常の文民として社会に統合させ社会復帰させる、いわゆるDDRRプロセスが極めて重要になります。また、公平で信頼にたる警察や他の法執行システムの復興も不可欠です。真の国民和解と復活のためには、国際人道法、国際人権法や国際刑事法の重大な侵害者の不処罰に終止符を打つことも重要です。

議長、

紛争下の文民保護は、国連システムの様々な機関が相互に、また加盟国やNGOとも調整・協力しながら取り組まなければならない課題です。そのような文脈で、この問題に取り組むために安全保障理事会が経済社会理事会と合同会議を持つことも検討すべきかもしれません。国連事務局内の各部署の調整も強化され、引き続き見直される必要があります。そのような観点から、エイド・メモワールを反映するために、PKO局とOCHAの調整が向上していることを歓迎します。複雑な緊急事態への対応を企画するにあたって、エイド・メモワールにしかるべき配慮があらゆる段階で払われる必要があります。

紛争下の文民保護は新しい課題ではありませんが、ロードマップが示すように実施しなければならない数多くの課題が依然としてあります。長く続きながら国際的関心を集めなかった危機の中で、多くの文民が犠牲になっている事実を忘れてはなりません。日本は、武力紛争下の文民保護に取り組むにあたって直面する多くの挑戦によりよく立ち向かうことに貢献する更なる議論を歓迎します。

ありがとうございました。