2003年

 
 

中東和平問題に関する原口大使演説

2003年12月2日

議長、

本年春イスラエル・パレスチナ両当事者によるロードマップ受入とそれに引き続くアカバ・サミットの開催を目の当たりにし、国際社会は中東和平問題の抜本的前進の機会がついに訪れたものと期待したましたが、8月以降状況は急速に悪化し、和平プロセスは浮動漂流してしまいました。今般クレイ新首相の下にパレスチナ自治政府の新内閣が組閣されたのを受け、ロードマップをようやく再始動させる時がきたとの期待が再び高まっています。日本もそのように期待しています。しかし、半年前にふくらんだ期待が急速にしぼんでしまった事実を深い失望とともに目撃した我々は、今回の新しい動きを歓迎しつつも、その見通しにつき慎重たらざるを得ません。パレスチナ・トラック前進の見通しは、色褪せてしまったとは言わないまでも、その見通しを明るいものとするためには、極めて多大な当事者の努力を要する状況にあると言えます。

議長、

幸いなことに、多くの関係者が真摯な努力を再開させる意図を明らかにしていることには勇気づけられます。まず日本はクレイ新首相とシャロン首相が、ロードマップ再開のために直接会談する用意があることを表明していることを歓迎します。米国政府が引き続きロードマップ実施の前進にコミットし、両当事者、とりわけイスラエルに対し説得を継続していることを賞賛します。この米のコミットは和平実現に不可欠です。またエジプト政府が、パレスチナ諸派の停戦を再度実現すべく仲介努力を行っていることを高く評価し、強く支持します。安保理決議1515号の採択を、和平の動きに弾みをつけるものとして歓迎します。さらに、昨1日ジュネーブ・イニシアティブが正式に公表されたところ、日本はこのような努力を和平への希望を高めるものとして歓迎します。この成果が紛争当事者間を含む国際社会の幅広い理解を得ることを期待します。これらの努力はすべて前向きであり、事態の前進に役立ちうるものです。

議長、

しかしここに深刻な問題があります。これらの努力が速やかに実を結んだとしても、それで実現可能性のある唯一の和平プランであるロードマップに関係者が復帰したと、イスラエル・パレスチナ側の双方の人々や国際世論が説得されるに十分でしょうか。答えは残念ながら否です。パレスチナ政府による過激派取締が効果を上げない限り、そしてイスラエル政府が入植地建設やグリーン・ラインを越えた壁建設を継続する限り、両当事者がロードマップに沿った和平の実現に真にコミットしているといくら発言しても、それがきちんと受け止められることは困難でしょう。パレスチナ側が先に行動すべきだ、イスラエル側こそ先に誠意を見せるべきだ、といった議論を続けていては和平の実現はあり得ないことを知るべきです。当事者による勇気と先見性のある行動こそが不可欠です。

議長、

明確に申し上げますが、日本は純粋に中東和平の実現を願っており、こうした訴えが無視されたからといって、和平に関心を失ったり、具体的行動を伴う和平に向けた当事者の努力への支持をやめることはありません。しかし、それにもかかわらず、あるいはそれだからこそ、両当事者には、国際社会がこれだけ一致して、繰り返し行っている訴えの持つ意味をよく考えていただきたいと思います。

議長、

日本を始めとする関心国は、パレスチナ政府による過激派取締とイスラエル政府による入植地建設やグリーン・ラインを越えた壁建設の中止を繰り返し訴えてきました。安保理においても、ここ総会においても、演説や投票行動を通じて何度も訴えてきました。二国間の様々なレベルのチャンネルを通じても訴えてきました。こうした訴えが両当事者によりどれだけ真剣に耳を傾けられ、心にどれだけ届いたのか、控えめに言って疑わしいと言わざるを得ません。

議長、

そしてさらに、和平に向けた双方の具体的な行動によって、両当事者のロードマップへのコミットが信頼性をもって受け止められるようになった後も、信頼性のテストは一回切りで終わるわけではなく、和平実現の時まで繰り返し現れるであろうこと、すなわち、両当事者が、二つの国家の平和的併存という構想に真にコミッ>トしていない限り、信頼性の危機はいつでも起こりうるということにも考えをいたしていただきたいと思います。

議長、

日本政府は、これまで中東和平推進の観点から対パレスチナ人道支援、改革支援を始めとする様々な支援を行ってきており、そのうちの一つとして本年5月に行った信頼醸成会議があります。紛争当事者間の対話と交渉を通じた解決のためには、双方の間にある程度の信頼感が存在していることが必要だからです。我々の信頼醸成支援はこれにとどまるものではなく、両当事者が相互の信頼醸成の重要性を理解し、それに真剣である限り継続的に、息長く支援していく所存です。しかし我々が意味のある支援ができるためには、両当事者が信頼醸成の重要性を理解し、それに真剣である必要があります。

議長、

いうまでもなく、永続的中東和平の実現には包括的和平の追求が必要です。したがってシリア・レバノン・トラックにおいても、同様に当事者が和平追求への関心を共有し、かかる関心の共有を基盤として当事者間の信頼醸成が促進されることが、交渉の再開及び前進を実現する上で有益と考えます。

議長、

我々は現在機会と希望に直面しているのでしょうか、それとも危機と絶望に直面しているのでしょうか。私は機会と希望に直面していると答えたい。しかしこの機会と希望を現実にかえる力があるとすれば、それは中東和平問題の当事者自身をおいて他にありません。全当事者の和平追求への強い意志とその究極目標のために譲歩を行い、責任を果たす強さがあって始めて、国際社会の他の国々の支援が効果的たりえます。この機会に改めて全当事者に和平追求への強い意志を促したいと思います。中東和平は国際社会の平和と繁栄に直結するものであり、彼らが誠意を持って我々の訴えに応える限り、国際社会は常に支援を差し延べる用意があります。

   
0

2003年

 
 

中東和平問題に関する原口大使演説

2003年12月2日

議長、

本年春イスラエル・パレスチナ両当事者によるロードマップ受入とそれに引き続くアカバ・サミットの開催を目の当たりにし、国際社会は中東和平問題の抜本的前進の機会がついに訪れたものと期待したましたが、8月以降状況は急速に悪化し、和平プロセスは浮動漂流してしまいました。今般クレイ新首相の下にパレスチナ自治政府の新内閣が組閣されたのを受け、ロードマップをようやく再始動させる時がきたとの期待が再び高まっています。日本もそのように期待しています。しかし、半年前にふくらんだ期待が急速にしぼんでしまった事実を深い失望とともに目撃した我々は、今回の新しい動きを歓迎しつつも、その見通しにつき慎重たらざるを得ません。パレスチナ・トラック前進の見通しは、色褪せてしまったとは言わないまでも、その見通しを明るいものとするためには、極めて多大な当事者の努力を要する状況にあると言えます。

議長、

幸いなことに、多くの関係者が真摯な努力を再開させる意図を明らかにしていることには勇気づけられます。まず日本はクレイ新首相とシャロン首相が、ロードマップ再開のために直接会談する用意があることを表明していることを歓迎します。米国政府が引き続きロードマップ実施の前進にコミットし、両当事者、とりわけイスラエルに対し説得を継続していることを賞賛します。この米のコミットは和平実現に不可欠です。またエジプト政府が、パレスチナ諸派の停戦を再度実現すべく仲介努力を行っていることを高く評価し、強く支持します。安保理決議1515号の採択を、和平の動きに弾みをつけるものとして歓迎します。さらに、昨1日ジュネーブ・イニシアティブが正式に公表されたところ、日本はこのような努力を和平への希望を高めるものとして歓迎します。この成果が紛争当事者間を含む国際社会の幅広い理解を得ることを期待します。これらの努力はすべて前向きであり、事態の前進に役立ちうるものです。

議長、

しかしここに深刻な問題があります。これらの努力が速やかに実を結んだとしても、それで実現可能性のある唯一の和平プランであるロードマップに関係者が復帰したと、イスラエル・パレスチナ側の双方の人々や国際世論が説得されるに十分でしょうか。答えは残念ながら否です。パレスチナ政府による過激派取締が効果を上げない限り、そしてイスラエル政府が入植地建設やグリーン・ラインを越えた壁建設を継続する限り、両当事者がロードマップに沿った和平の実現に真にコミットしているといくら発言しても、それがきちんと受け止められることは困難でしょう。パレスチナ側が先に行動すべきだ、イスラエル側こそ先に誠意を見せるべきだ、といった議論を続けていては和平の実現はあり得ないことを知るべきです。当事者による勇気と先見性のある行動こそが不可欠です。

議長、

明確に申し上げますが、日本は純粋に中東和平の実現を願っており、こうした訴えが無視されたからといって、和平に関心を失ったり、具体的行動を伴う和平に向けた当事者の努力への支持をやめることはありません。しかし、それにもかかわらず、あるいはそれだからこそ、両当事者には、国際社会がこれだけ一致して、繰り返し行っている訴えの持つ意味をよく考えていただきたいと思います。

議長、

日本を始めとする関心国は、パレスチナ政府による過激派取締とイスラエル政府による入植地建設やグリーン・ラインを越えた壁建設の中止を繰り返し訴えてきました。安保理においても、ここ総会においても、演説や投票行動を通じて何度も訴えてきました。二国間の様々なレベルのチャンネルを通じても訴えてきました。こうした訴えが両当事者によりどれだけ真剣に耳を傾けられ、心にどれだけ届いたのか、控えめに言って疑わしいと言わざるを得ません。

議長、

そしてさらに、和平に向けた双方の具体的な行動によって、両当事者のロードマップへのコミットが信頼性をもって受け止められるようになった後も、信頼性のテストは一回切りで終わるわけではなく、和平実現の時まで繰り返し現れるであろうこと、すなわち、両当事者が、二つの国家の平和的併存という構想に真にコミッ>トしていない限り、信頼性の危機はいつでも起こりうるということにも考えをいたしていただきたいと思います。

議長、

日本政府は、これまで中東和平推進の観点から対パレスチナ人道支援、改革支援を始めとする様々な支援を行ってきており、そのうちの一つとして本年5月に行った信頼醸成会議があります。紛争当事者間の対話と交渉を通じた解決のためには、双方の間にある程度の信頼感が存在していることが必要だからです。我々の信頼醸成支援はこれにとどまるものではなく、両当事者が相互の信頼醸成の重要性を理解し、それに真剣である限り継続的に、息長く支援していく所存です。しかし我々が意味のある支援ができるためには、両当事者が信頼醸成の重要性を理解し、それに真剣である必要があります。

議長、

いうまでもなく、永続的中東和平の実現には包括的和平の追求が必要です。したがってシリア・レバノン・トラックにおいても、同様に当事者が和平追求への関心を共有し、かかる関心の共有を基盤として当事者間の信頼醸成が促進されることが、交渉の再開及び前進を実現する上で有益と考えます。

議長、

我々は現在機会と希望に直面しているのでしょうか、それとも危機と絶望に直面しているのでしょうか。私は機会と希望に直面していると答えたい。しかしこの機会と希望を現実にかえる力があるとすれば、それは中東和平問題の当事者自身をおいて他にありません。全当事者の和平追求への強い意志とその究極目標のために譲歩を行い、責任を果たす強さがあって始めて、国際社会の他の国々の支援が効果的たりえます。この機会に改めて全当事者に和平追求への強い意志を促したいと思います。中東和平は国際社会の平和と繁栄に直結するものであり、彼らが誠意を持って我々の訴えに応える限り、国際社会は常に支援を差し延べる用意があります。