第五十八回国連総会本会議 議題四十「特別な経済支援を含む国連の人道及び災害救済支援の調整強化」に関する原口国連常駐代表演説(仮訳)
2003年10月21日
議長、
まず初めに、国連機関で献身的な人道支援活動を行っている全ての関係者に深く敬意を表します。彼らは、生命の危険を伴いつつも困窮する人々を助けるために、賞賛すべき貢献を行っています。しかしながら、彼らの誠実な努力にもかかわらず、同じ危機に異なる観点から立ち向かっている援助国と国連機関の間で調整が行われないため、人道支援が期待される効果を十分にあげないこともしばしばあります。
財源が限られている中で効果的かつ相互に補強し合う効果をあげるためには、援助国と様々な人道支援機関間の密接な調整と人道支援から復興への継ぎ目のない移行が非常に重要と考えています。我が国としては、国連人道調整事務所(OCHA)が調整に主要な役割を果たす形で、あらゆる援助国と人道機関が一緒になって活動を行うことを改めて訴えたいと思います。
この文脈で、人間の安全保障委員会が去る五月に国連事務総長に提出した報告書を我が国は歓迎いたします。この報告書は、他の課題とともに、国連機関が包括的かつ統合された形で危機に対処する必要性という重要な問題に適切に取り組んでいます。日本政府代表部はニューヨークにある全ての国連代表部に報告書をお送りしましたので、ここにいる代表団の皆様がお読みになることを望んでいます。
この報告書に、「支援はしばしば人々をカテゴリーに分類して行われる。難民、帰還民、国内避難民、復員兵といったカテゴリーは、支援を提供する各機関の任務規定を反映したもので、包括的なニーズを反映したものではない。」との一節があります。支援の分野もまた、食糧、教育、医療、住宅といったように各機関の任務規定に基づいて分割されています。しかし、実際には、困窮する人々を助けるためのあらゆる形の活動が関連しています。苦しんでいる人々の真の要求に効果的に応えるためには、国連機関は一層統合され、かつ包括的な形で任務を遂行しなければなりません。
人道支援から復興への継ぎ目のない移行を確保することもまた重要です。人間の安全保障委員会の共同議長を務められた緒方貞子前難民高等弁務官は「紛争後」という概念を問題視され、紛争中の活動と紛争後の活動に区別することは人為的でしばしば誤解を与えるものであり、そのような区別に基づく現在の業務整理を考え直すべきであるとおっしゃられています。活動の焦点は時を経るにつれ変わるかもしれませんが、人道的危機における、いわゆる紛争中及び紛争後のあらゆる局面で、人道支援及び開発支援とも遂行されなければならないのです。各機関の任務規定に拘るよりも、人々を支援することに焦点をあてることによって、最も効率的かつ全体的な形で直面する問題に取り組んだ上で結果を出すことができるのです。
このような考え方に立って、我が国は緒方イニシアティブと呼ばれるアフガニスタンに対する地域総合開発支援を供与する革新的な事業を行っています。緒方イニシアティブは、アフガニスタン国民のオーナーシップの下、UNHCR、UNICEF、WFPといった機関との密接な協力の下、地方の復旧と共同体の活性化に重点をおきながら、具体的かつ実行可能な事業を企画・実施することを目指しています。事業としては、難民や国内避難民の再定住支援のための仮住居や上水システムの提供、包括的な地域開発のための雇用創出や労働によって食糧を得るプログラムなど、多様な分野を含んでいます。緒方イニシアティブによって得られる経験によって、援助を受けている人々の利益を反映しつつ、人間の安全保障という概念を実際の事業に適用するための方法論を開発していくことができるのではないかと考えています。
議長、
国連機関同士が如何に調整しようとも、十分な財源がなければ完全には活動できないことも事実です。それ故に、一般の方々の理解を確保することが重要です。一般の方々から人道的な必要性に取り組むにあたっての深く広い理解と支持が得られれば、国家にとっては人道危機への貢献が行い易くなります。人道的危機に貧している困窮した人々の生活を助け、目に見える良い結果を国連機関が一般の方々に知らせるため意を用いることが重要です。国際社会の多様性を反映した人道支援活動に広範な支持を得るためにも、新たに財政貢献を行う国々を増やしていくとともに、国連に雇用される人道支援要員の地理的衡平性を向上することも重要だと思います。
同時に、いわゆる「忘れられた危機」への対応を怠ったときの代償を忘れないことも重要です。CNNが貧窮している人々の衝撃的な映像を含んだ新しい危機についてのニュースを放映すれば、世界の関心を直ちに引きます。一方で、人道的悲劇が長く続いても、報道されない限り、このような悲劇を知っていたり、心配する人はほとんどいません。我が国は、OCHAや他の国連機関が統一アピール(CAP)等を通じて、いわゆる忘れられた危機により効果的に取り組むための方法を向上させることを望みます。我が国としては、国連経由ないしは二国間で、南部アフリカ等の関心が高いとは言えない地域への人道支援を引き続き行っていきます。
議長、
バグダッドにおける国連本部への非道な攻撃によって、人道支援要員の安全に国際社会は大きな関心を持つようになりました。人道支援要員は人道、中立、不偏の精神を持って、紛争の早い段階から危険な前線へとしばしば送られます。人道支援要員はどうしようもなく苦しんでいる人々を助けるとの大義に深く身を投じた人達です。彼らに対する攻撃は、どのような理由であれ許容されるものではありません。現場に人道支援要員がいなければ、効果的な人道支援は決してできないことに留意しなければなりません。国連の人道支援活動に携わっている関係者の安全を確保することは不可欠です。我が国は、人道支援要員の一層の保護に向けた重要なステップとして、安保理決議一五〇二を歓迎します。既存の国連要員保護条約の下での保護対象範囲を拡大することも含め、要員の安全について更に議論をつくしていかなければなりません。
最後に、防災の重要性に触れたいと思います。人の手による紛争に加えて、自然災害もしばしば深刻な人道的危機の原因になります。従って、人道支援の一定の部分は、自然災害の被災者を救済することに向けられています。しかし、被災者の救済だけでは十分ではなく、被害軽減、災害予防、災害への備えといった防災に関する広範な措置が求められます。防災は持続的な開発を実現するためにも重要です。ヨハネスブルグ実施計画を実施に移すとの観点や、第3回世界水フォーラム閣僚級国際会議のフォローアップを行うとの観点からも非常に重要です。我が国は、ヨハネスブルグ実施計画の原則を反映しつつ具体的な政策措置を実現するために、横浜戦略のレビューを完結させ、更に向上する目的で、国連が防災世界会議を開催できるよう、国連総会が決議を採択することを提案しています。国連加盟国にこの決議への支持を訴えたいと思います。更に、受け入れられれば、我が国としては防災国際戦略事務局(ISDR)との密接な協力の下、二〇〇五年一月に兵庫県神戸市で会議を開催したいと考えています。
議長、
最後に、我が国は他の援助国とともに、OCHAや他の人道支援に従事する国連機関の熱心な支援者であり続けることを保証いたします。
ありがとうございました。
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