2003年

 
 

安保理:「正義と法の支配:国連の役割」に関する公開討論における原口国連代表部常駐代表演説

2003年9月30日

議長、

国連憲章の第1条は、国連の目的の一つが、国際的紛争の解決を平和的手段によって且つ正義及び国際法の原則に従って実現することである旨規定しています。58年経った今も、正義及び国際法の原則に従った紛争の解決が、国連の重要な役割であることに変化は全くありません。むしろ、グローバリゼーションの進展により国境を越える多様な国際的問題を解決する必要性がより一層高まっている現在、国連に課されたこの分野での任務はより一層重要なものになってきていると言えます。

統合された政府の未だ存在しない国際社会においては、強制的な権限を有する立法機関も司法機関も存在しません。条約は拘束されることについての当事国の同意が必要であり、国際裁判も紛争の付託について紛争当事国の一般的ないし個別的な同意が必要です。

しかし、環境、人権、貿易・投資など、各国の重大な国益が複雑に交錯する多くの問題について、諸国家は自らの行動の幅を狭める法的拘束力のある合意や決定に服することに躊躇しがちであります。

このような国際社会において法の支配を確立することは、重要ではあるが容易なことではありません。先ずできるだけ多くの国が参加する合意の枠組みの創設に努めることが必要となります。理想のみを追っても、受け入れる国が極く少数であれば実効性はありません。その意味で、最も普遍的なメンバーシップを持つ国連及びその関連機関において、十分な検討を行いメンバーの理解を得ながら進める法形成機能は非常に重要です。また安保理は国連憲章25条により、国際の平和と安全の維持の分野で加盟国を拘束する法的決定を行う権限を与えられており、特に冷戦後、ますます多くの重要な決定を行うようになってきています。

議長、

日本政府は国連のこの分野における役割を重視しています。この意味で、英議長国がこの議題を安保理のテーマとしてとりあげたイニシャティブを歓迎するとともに、この機会に関連する最近のいくつかの進展についての日本の考えに触れたいと思います。

まず第一に、国際刑事裁判の発展についてです。深刻な罪を犯した者が罰せられずにいることは不正義であり、その社会や国家を堕落させるものです。当該社会や国家が自ら適切に対応できないのであれば、国際社会が替わって彼らを裁くことは、紛争後の各国の秩序形成を促進し経済的社会的発展の基礎を築くとともに、普遍的な正義を実現する上で重要ですし、将来における同様の犯罪を抑止するという意味でも国際社会全体の利益になります。90年代には安保理がICTYとICTRを設立し、国際刑事裁判の分野で大きな進展を見ました。またシェラ・レオーネ特別裁判所も安保理の要請により設立されました。我が国としてはこうした安保理の役割を支持しています。他方、ICTYとICTRの活動に長い時間と非常に高い費用がかかっているという、ストロー外相が先週の会合で表明した懸念を我々は共有しており、これらの裁判所が今後効率的に審理を進め速やかにマンデートを完遂できるよう安保理が厳格に監視を行うよう要請致します。

またカンボディアのKR裁判についても国連は重要な貢献を行うべきであり、日本政府は関連する国連総会決議の採択のためにイニシャティブをフランスとともにとってきました。今後は遅滞なく裁判所が活動を開始し、カンボディアにおける正義の実現に貢献することを望んでいます。

国際刑事裁判の分野で最近の最も重要な進展は、国際刑事裁判所の発足でしょう。日本政府は国際刑事裁判所の設立を一貫して支持してきており、ICC規程の発効を歓迎しています。今後同裁判所が実効性と普遍性を得るためには、多くの国にとって同裁判所が自分達の裁判所であると実感できるようになることが必要であり、できるだけ多くの国の期待に応えた活動を行うことが重要であると考えます。

第二に、テロ抑止及び国連等人道要員の安全確保についてです。テロリズムの根絶は国際社会全体にとっての課題であり、国連はテロリストに司法の裁きを受けることを確保するための国際条約の締結や、テロリズム防止措置のために重要な役割を果たしてきています。

バグダッドの国連事務所に対するテロ攻撃は多数の死傷者を生み、国際社会に大きな衝撃を与えました。この関連で安保理が採択した決議1502は、人道活動に従事する国連関連要員の安全の確保のために重要な一歩であり我々はこれを歓迎します。今後、現行の国連要員安全条約の保護の範囲につき対象を明確にした上で拡大することを含め、更に議論を深めていくことが必要と考えます。

第三に、正義と法の支配の重視は、人間の安全保障を推進し、経済社会開発を進める上で不可欠な要素です。正義と法の支配の存在しないところには、不満と恨みが鬱積し、本来であれば一丸となって開発に取り組むべき社会が、分裂し対立し、紛争と貧困の悪循環に陥りかねません。

この意味で、国際社会による紛争後の法制度整備支援は、法の支配を確立させ将来の紛争を予防するとともに、国家建設と開発を進める基盤の構築を支援する上で決定的重要性を有しています。この観点から日本政府は、カンボディアや東チモール等において、基本法制の整備や司法機関の人材育成等多様な支援を行ってきています。国連の行っている平和活動(Peace Operations)もこの分野での貢献を強化させてきていることは心強い進展です。また、犯罪防止・刑事司法分野における人材育成の面でも、国連と日本政府の協定に基づいて開設された国連アジア極東犯罪防止研究所(UNAFEI)が、アジア・太平洋諸国を中心に刑事司法機関等の実務家を対象に研修等を実施し、約40年にわたり継続的に貢献してきています。今回作成されることとなった事務総長報告において、法制度整備支援について、安保理を含む国連諸機関及び各国のそれぞれが、これまでどのような支援を行ってきたか、また今後どのような支援のメニューがあるかという点についての評価と勧告が含まれるよう要請致します。

議長、

正義と法の支配は、国際の平和と安全の確保をはじめとして、ほとんど全ての国連の活動の重要な柱となる原則であります。この意味で、正義と法の支配は様々な広範な問題について国連で我々がを議論をする際に念頭に置くべき重要な要素であり、今月の24日及び本日の議論が今後の国連の活動に指針を与えるものになることを望むとともに、今後の事務総長報告に対する期待を表明いたします。

有り難うございました。

   
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2003年

   

安保理:「正義と法の支配:国連の役割」に関する公開討論における原口国連代表部常駐代表演説

2003年9月30日

議長、

国連憲章の第1条は、国連の目的の一つが、国際的紛争の解決を平和的手段によって且つ正義及び国際法の原則に従って実現することである旨規定しています。58年経った今も、正義及び国際法の原則に従った紛争の解決が、国連の重要な役割であることに変化は全くありません。むしろ、グローバリゼーションの進展により国境を越える多様な国際的問題を解決する必要性がより一層高まっている現在、国連に課されたこの分野での任務はより一層重要なものになってきていると言えます。

統合された政府の未だ存在しない国際社会においては、強制的な権限を有する立法機関も司法機関も存在しません。条約は拘束されることについての当事国の同意が必要であり、国際裁判も紛争の付託について紛争当事国の一般的ないし個別的な同意が必要です。

しかし、環境、人権、貿易・投資など、各国の重大な国益が複雑に交錯する多くの問題について、諸国家は自らの行動の幅を狭める法的拘束力のある合意や決定に服することに躊躇しがちであります。

このような国際社会において法の支配を確立することは、重要ではあるが容易なことではありません。先ずできるだけ多くの国が参加する合意の枠組みの創設に努めることが必要となります。理想のみを追っても、受け入れる国が極く少数であれば実効性はありません。その意味で、最も普遍的なメンバーシップを持つ国連及びその関連機関において、十分な検討を行いメンバーの理解を得ながら進める法形成機能は非常に重要です。また安保理は国連憲章25条により、国際の平和と安全の維持の分野で加盟国を拘束する法的決定を行う権限を与えられており、特に冷戦後、ますます多くの重要な決定を行うようになってきています。

議長、

日本政府は国連のこの分野における役割を重視しています。この意味で、英議長国がこの議題を安保理のテーマとしてとりあげたイニシャティブを歓迎するとともに、この機会に関連する最近のいくつかの進展についての日本の考えに触れたいと思います。

まず第一に、国際刑事裁判の発展についてです。深刻な罪を犯した者が罰せられずにいることは不正義であり、その社会や国家を堕落させるものです。当該社会や国家が自ら適切に対応できないのであれば、国際社会が替わって彼らを裁くことは、紛争後の各国の秩序形成を促進し経済的社会的発展の基礎を築くとともに、普遍的な正義を実現する上で重要ですし、将来における同様の犯罪を抑止するという意味でも国際社会全体の利益になります。90年代には安保理がICTYとICTRを設立し、国際刑事裁判の分野で大きな進展を見ました。またシェラ・レオーネ特別裁判所も安保理の要請により設立されました。我が国としてはこうした安保理の役割を支持しています。他方、ICTYとICTRの活動に長い時間と非常に高い費用がかかっているという、ストロー外相が先週の会合で表明した懸念を我々は共有しており、これらの裁判所が今後効率的に審理を進め速やかにマンデートを完遂できるよう安保理が厳格に監視を行うよう要請致します。

またカンボディアのKR裁判についても国連は重要な貢献を行うべきであり、日本政府は関連する国連総会決議の採択のためにイニシャティブをフランスとともにとってきました。今後は遅滞なく裁判所が活動を開始し、カンボディアにおける正義の実現に貢献することを望んでいます。

国際刑事裁判の分野で最近の最も重要な進展は、国際刑事裁判所の発足でしょう。日本政府は国際刑事裁判所の設立を一貫して支持してきており、ICC規程の発効を歓迎しています。今後同裁判所が実効性と普遍性を得るためには、多くの国にとって同裁判所が自分達の裁判所であると実感できるようになることが必要であり、できるだけ多くの国の期待に応えた活動を行うことが重要であると考えます。

第二に、テロ抑止及び国連等人道要員の安全確保についてです。テロリズムの根絶は国際社会全体にとっての課題であり、国連はテロリストに司法の裁きを受けることを確保するための国際条約の締結や、テロリズム防止措置のために重要な役割を果たしてきています。

バグダッドの国連事務所に対するテロ攻撃は多数の死傷者を生み、国際社会に大きな衝撃を与えました。この関連で安保理が採択した決議1502は、人道活動に従事する国連関連要員の安全の確保のために重要な一歩であり我々はこれを歓迎します。今後、現行の国連要員安全条約の保護の範囲につき対象を明確にした上で拡大することを含め、更に議論を深めていくことが必要と考えます。

第三に、正義と法の支配の重視は、人間の安全保障を推進し、経済社会開発を進める上で不可欠な要素です。正義と法の支配の存在しないところには、不満と恨みが鬱積し、本来であれば一丸となって開発に取り組むべき社会が、分裂し対立し、紛争と貧困の悪循環に陥りかねません。

この意味で、国際社会による紛争後の法制度整備支援は、法の支配を確立させ将来の紛争を予防するとともに、国家建設と開発を進める基盤の構築を支援する上で決定的重要性を有しています。この観点から日本政府は、カンボディアや東チモール等において、基本法制の整備や司法機関の人材育成等多様な支援を行ってきています。国連の行っている平和活動(Peace Operations)もこの分野での貢献を強化させてきていることは心強い進展です。また、犯罪防止・刑事司法分野における人材育成の面でも、国連と日本政府の協定に基づいて開設された国連アジア極東犯罪防止研究所(UNAFEI)が、アジア・太平洋諸国を中心に刑事司法機関等の実務家を対象に研修等を実施し、約40年にわたり継続的に貢献してきています。今回作成されることとなった事務総長報告において、法制度整備支援について、安保理を含む国連諸機関及び各国のそれぞれが、これまでどのような支援を行ってきたか、また今後どのような支援のメニューがあるかという点についての評価と勧告が含まれるよう要請致します。

議長、

正義と法の支配は、国際の平和と安全の確保をはじめとして、ほとんど全ての国連の活動の重要な柱となる原則であります。この意味で、正義と法の支配は様々な広範な問題について国連で我々がを議論をする際に念頭に置くべき重要な要素であり、今月の24日及び本日の議論が今後の国連の活動に指針を与えるものになることを望むとともに、今後の事務総長報告に対する期待を表明いたします。

有り難うございました。