2003年

 
 

紛争後の状況における国連の役割に関する安保理ラップアップ会合における原口国連大使演説

平成15年4月30日

議長、

紛争後の国連の役割に焦点を当てた本日のラップアップ会合を開催するという議長のイニシアティブを歓迎します。議長の選ばれた議題は、時宜を得ており、かつ、適切なものです。時宜を得ているというのは、冷戦の終了以降、国際社会は増大する紛争後の状況に取り組まなければならないからであり、適切というのは、このような紛争後の状況は紛争そのもの以上とはいえないにしても、それと同じ程度に国際社会の関心を必要とするからです。

紛争後の状況には、人道ニーズに対応し、平和と安定を確保するため多くの非常に重要な課題があります。難民及び国内避難民の緊急の必要への対応及びその再定住の促進、国内の治安の回復、元兵士の武装解除及びその火器の回収、地雷の除去、医療、基礎教育等の基礎的なサービスの回復、基礎インフラの再建、新しい実効性あるガバナンスの構築、敵対していたグループ間の和解促進等、数え上げればきりがありません。ここで強調すべき重要なことは、これらの問題に対する国際社会の断固たる対応が不可欠であるということです。これらに有効適切に対応できなければ、再び紛争に逆行するおそれがあります。

日本はかねてから「人間の安全保障」という考えの重要性を強調してきました。グローバリゼーションが進むにつれ、伝統的な「国家の安全保障」の枠組みだけでは人間の生存、生活、尊厳を確保することが益々難しくなっています。このことは、いわゆる「失敗国家」、「破綻国家」の場合において特に言えます。紛争後の状況においては、国家の枠組みはしばしば大幅に傷つき、機能不全に陥っています。まさにこのような状況こそ適切な「人間の安全保障」による対応が求められているのです。

ご承知のとおり、2000年の国連ミレニアム・サミットにおける日本政府のイニシアティブの結果として、人間の安全保障委員会が設置されました。緒方貞子、アマルティア・セン教授の両氏が共同議長を務めるこの委員会は、明日5月1日にアナン事務総長にその最終報告書を提出し、公表する予定です。関係者に対するこの報告書の内容の説明のため今週初めにIPA(国際平和アカデミー)が主催した会合において、同報告書も「紛争後の状況における人々の保護及び能力向上」を人間の安全保障の観点から取り組むべき最も重要な課題の一つとして強調していることを知りました。

議長、

紛争後の国連の役割について簡単に三点指摘したいと思います。

第一に、国連システムは紛争後の状況に対処する幅広い経験を有しており、その経験を通じて個々の紛争後の状況の特定の必要性に対応し、平和の定着に貢献する能力を培ってきました。しかし、深刻な問題に直面していないということではありません。例えば、国連システムにおいて、人道支援と復興支援活動を行うものは異なる機関に属しています。このため、それらの任務の調整が常に適切に行われるわけではありません。実際に、我々は人道支援の提供と復興・開発支援の提供の間にギャップが生ずる場合がしばしばあることを目の当たりにしてきました。我々は、紛争後の状況下に生きる人々にとって、いずれの種類の支援も不可欠なものであり、両者が別個の施策及びスケジュールに従って計画され、実施されるべき理由はないということを認識する必要があります。日本は、国連が人道から復興開発段階への切れ目のない一貫した支援の提供をどのように実施するかについて検討することが重要であると考えています。

第二に、国連は、平和が定着し状況が安定するまで、紛争後の状況に対する国際社会の関心とコミットメントを維持する重要な責任があります。国際社会の関心が他の場所で生じた新たな紛争に移ってしまうことは避けられません。しかし、国連、特に安保理は、一度ある紛争後の状況の問題解決に着手した以上、平和が完全かつ不可逆的なものとなるまで、国際社会の協力と関心を維持するよう地道に努力し続けなければなりません。

第三に、191か国から構成される国連は、今日の世界において、唯一の真に普遍的な機関です。従って、ある紛争後の状況に対して国連が積極的に関与する決定を行えば、その決定は国際社会全体の意思を反映していると見られます。かかる決定と、その結果としての紛争後の状況における国連のプレゼンスは、かつての紛争の当事者間の和解を促進し、彼らに国造りにはげむ確固たる基礎を提供する上で非常に有効です。国連は、また紛争後の状況において支援を提供しようとする加盟国に対し、その支援について正当性を付与する立場にあります。アフガニスタンからシエラレオネまで、東ティモールからコソボまで、紛争から抜け出しつつある国々において、また、冷酷な独裁者の影から脱しつつあるイラクのような国々において、国際的な支援は、国連の積極的な関与を通じて大きく増大するであろうということを忘れるべきではありません。

議長、ありがとうございました。

   
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2003年

 
 

紛争後の状況における国連の役割に関する安保理ラップアップ会合における原口国連大使演説

平成15年4月30日

議長、

紛争後の国連の役割に焦点を当てた本日のラップアップ会合を開催するという議長のイニシアティブを歓迎します。議長の選ばれた議題は、時宜を得ており、かつ、適切なものです。時宜を得ているというのは、冷戦の終了以降、国際社会は増大する紛争後の状況に取り組まなければならないからであり、適切というのは、このような紛争後の状況は紛争そのもの以上とはいえないにしても、それと同じ程度に国際社会の関心を必要とするからです。

紛争後の状況には、人道ニーズに対応し、平和と安定を確保するため多くの非常に重要な課題があります。難民及び国内避難民の緊急の必要への対応及びその再定住の促進、国内の治安の回復、元兵士の武装解除及びその火器の回収、地雷の除去、医療、基礎教育等の基礎的なサービスの回復、基礎インフラの再建、新しい実効性あるガバナンスの構築、敵対していたグループ間の和解促進等、数え上げればきりがありません。ここで強調すべき重要なことは、これらの問題に対する国際社会の断固たる対応が不可欠であるということです。これらに有効適切に対応できなければ、再び紛争に逆行するおそれがあります。

日本はかねてから「人間の安全保障」という考えの重要性を強調してきました。グローバリゼーションが進むにつれ、伝統的な「国家の安全保障」の枠組みだけでは人間の生存、生活、尊厳を確保することが益々難しくなっています。このことは、いわゆる「失敗国家」、「破綻国家」の場合において特に言えます。紛争後の状況においては、国家の枠組みはしばしば大幅に傷つき、機能不全に陥っています。まさにこのような状況こそ適切な「人間の安全保障」による対応が求められているのです。

ご承知のとおり、2000年の国連ミレニアム・サミットにおける日本政府のイニシアティブの結果として、人間の安全保障委員会が設置されました。緒方貞子、アマルティア・セン教授の両氏が共同議長を務めるこの委員会は、明日5月1日にアナン事務総長にその最終報告書を提出し、公表する予定です。関係者に対するこの報告書の内容の説明のため今週初めにIPA(国際平和アカデミー)が主催した会合において、同報告書も「紛争後の状況における人々の保護及び能力向上」を人間の安全保障の観点から取り組むべき最も重要な課題の一つとして強調していることを知りました。

議長、

紛争後の国連の役割について簡単に三点指摘したいと思います。

第一に、国連システムは紛争後の状況に対処する幅広い経験を有しており、その経験を通じて個々の紛争後の状況の特定の必要性に対応し、平和の定着に貢献する能力を培ってきました。しかし、深刻な問題に直面していないということではありません。例えば、国連システムにおいて、人道支援と復興支援活動を行うものは異なる機関に属しています。このため、それらの任務の調整が常に適切に行われるわけではありません。実際に、我々は人道支援の提供と復興・開発支援の提供の間にギャップが生ずる場合がしばしばあることを目の当たりにしてきました。我々は、紛争後の状況下に生きる人々にとって、いずれの種類の支援も不可欠なものであり、両者が別個の施策及びスケジュールに従って計画され、実施されるべき理由はないということを認識する必要があります。日本は、国連が人道から復興開発段階への切れ目のない一貫した支援の提供をどのように実施するかについて検討することが重要であると考えています。

第二に、国連は、平和が定着し状況が安定するまで、紛争後の状況に対する国際社会の関心とコミットメントを維持する重要な責任があります。国際社会の関心が他の場所で生じた新たな紛争に移ってしまうことは避けられません。しかし、国連、特に安保理は、一度ある紛争後の状況の問題解決に着手した以上、平和が完全かつ不可逆的なものとなるまで、国際社会の協力と関心を維持するよう地道に努力し続けなければなりません。

第三に、191か国から構成される国連は、今日の世界において、唯一の真に普遍的な機関です。従って、ある紛争後の状況に対して国連が積極的に関与する決定を行えば、その決定は国際社会全体の意思を反映していると見られます。かかる決定と、その結果としての紛争後の状況における国連のプレゼンスは、かつての紛争の当事者間の和解を促進し、彼らに国造りにはげむ確固たる基礎を提供する上で非常に有効です。国連は、また紛争後の状況において支援を提供しようとする加盟国に対し、その支援について正当性を付与する立場にあります。アフガニスタンからシエラレオネまで、東ティモールからコソボまで、紛争から抜け出しつつある国々において、また、冷酷な独裁者の影から脱しつつあるイラクのような国々において、国際的な支援は、国連の積極的な関与を通じて大きく増大するであろうということを忘れるべきではありません。

議長、ありがとうございました。