ミレニアム・サミット成果のフォローアップ(議題44)及び事務総長年次報告(議題10)に関する総会討議における原口幸市国連大使演説(仮訳)
平成14年10月7日
議長、
本日は、現在の国連がかかえる主要課題のうち、世界の平和と安全、開発、国連改革に焦点をあてて申し述べます。
(世界の平和と安全)
議長、
大量破壊兵器及びその運搬手段の拡散防止は、世界の平和と安全の維持にとって緊要な課題です。大量破壊兵器がテロに用いられるとき、特に深刻な脅威となります。現在国際社会にとって最大の懸案となっているのはイラクの問題です。イラクが査察を無条件、無制限で受け入れ、すべての安保理決議を履行することが不可欠です。この問題の解決に向けた国際的協調を形成するために、適切かつ必要な安保理決議を採択することを追求すべきだと考えています。
朝鮮半島の緊張緩和は、北東アジア地域の平和と安定にとり不可欠です。先般の日朝首脳会談において、北朝鮮側は、拉致問題をはじめとする人道上の問題や核及びミサイル問題などの安全保障上の問題の解決に向け、誠実に取り組んでいく旨明確にしました。我が国としては、再開される日朝国交正常化交渉の中で、諸懸案の解決を図り、この地域の平和と安定に資する形で国交正常化を実現するよう粘り強い努力を行っていく考えです。
最近のインド・パキスタン関係は我々にとって大きな懸案です。南アジアのみならず世界の平和と安定のために、両国が緊張を緩和し、対話を再開するよう求めます。また、スリランカの和平・復興に関し、政府とLTTEとの間でスリランカに和平と復興をもたらすために和平交渉が開始されたことを歓迎します。我が国は、和平交渉及び復興プロセスにおいて協力する用意があります。
アフガニスタンに関しては、国際社会が、治安確保のための協力を進め、アフガニスタン支援へのコミットメントを着実に実施していくことが重要です。こうした観点から我が国は、元兵士の社会復帰支援プロジェクトである「平和のための登録」を準備しています。アフガニスタンの安定のために、国際社会が人道から復旧・復興への継ぎ目のない支援を実現させることが極めて重要だと考えます。また、主要都市を結ぶ道路建設への協力や、難民・避難民の再定住化支援プロジェクト等を通じた地方の総合開発への協力が急務です。
中東情勢については、一日も早くイスラエル、パレスチナ二国家の平和的共存のビジョンが実現されることが重要です。しかし、現在何よりも必要なことは、両者の信頼を回復させ、暴力の悪循環を断ち切ることです。我が国は、イスラエル軍の一昨年9月のラインまでの即時撤退と、自治区での軍事行動、封鎖の終結を強く求めるとともに、パレスチナ過激派によるテロを強く非難します。
アフリカにおいて、アンゴラにおける和平の成立やスーダンにおける部分的停戦など、前向きな動きが見られます。一方で、象牙海岸において、残念ながら国民融和に向けた努力に逆行する事態が生じています。暴力と流血の事態は直ちに終結しなければなりません。この関連で調停に向けた西アフリカ共同体等のアフリカ人自身による取組を評価し、支持します。
(開発)
議長、
開発と平和や安定との間には明らかな因果関係があります。不安定、紛争、戦争があるところには、悲しみ、涙、挫折感、低開発、貧困があり、安定と平和があるところには、喜び、微笑み、希望、着実な発展があります。
開発はまた、「人間の安全保障」の向上と関連します。人間の安全保障は我が国が重視している概念であり、来春、緒方・セン共同議長による人間の安全保障委員会が出される最終報告を期待しています。
歴史的事実として、60年代には東アジア諸国とサブサハラ・アフリカ諸国の一人当たりGNPは大差ありませんでした。その後東アジア諸国は一人あたりGNPを大きく伸張させました。そして、過去10年間で貧困人口の比率を半減させることに成功しています。そうした持続的成長は「東アジアの奇跡」と呼ばれています。私は何も、日本もその一部を占める東アジアの成果を自慢するために、この事実に触れている訳では毛頭ありません。ただ、私は、この事実の裏に、今後開発を進める上で我々の有益な参考になる貴重な秘密が隠れていると考えたからです。
何がその秘密なのでしょうか。世銀は、綿密な研究の結果、旺盛な投資とそれを支える高い貯蓄、高い資質を有する人材の存在によって達成されたと結論づけています。私は旺盛な投資が成長の原動力であったことに同意します。しかし留意すべきは、多くの投資資金が、低所得であったが、より良い将来を信じた人々による少額の貯蓄の蓄積であったということです。
基礎教育を受けた多くの人々の存在も別の重要な要素でした。子どもの学費を払うために多くの母親の昼食を抜いてこれを可能にしました。こうした鮮明で具体的な人的要素が成功をもたらす上で大きかったと考えています。
勿論、ドナーや海外の投資家が開発に果たした重要で補完的な役割を否定するものではありません。多くの途上国が抱える大きな障害や、相互依存の進展に鑑みて、ドナーの支援はますます重要となっています。
ミレニアム開発目標に合意できたことは幸運でした。しかし、ゴールに向かって、汗を流し、息を切らせて走る多くのランナーがいなければ、又、この真剣なランナーに暖かい声援を送り、水やタオルを提供したり、コースを整備したりする多くの応援団がいなければ、開発目標が余り意味を持たなくなってしまいます。このことを我々自身が常に考えていることが重要です。
この関連で我が国は、「アフリカ開発のための新パートナーシップ(NEPAD)」の策定やアフリカ連合の創設をアフリカ諸国の自助努力の表れとして歓迎しています。アフリカ諸国がNEPADに基づき一層の開発努力を進められることを期待し、また国際社会との提携の強化に貢献すべく、来年10月にアフリカ開発に関する東京国際会議(TICADIII)を開催します。
議長、
開発は持続可能となるよう追求しなければなりません。それゆえにヨハネスブルグ・サミットの成果を然るべくフォローアップしていくことが重要です。例えば、「持続可能な開発に関する世界首脳会議」の実施計画において、国連が2005年から「持続可能な開発のための教育の10年」を宣言することを検討することが求められていることに賛同します。我が国は、来年3月、第3回世界水フォーラム及び閣僚級会合を開催します。
エイズ及び他の感染症への対応はもう一つの大きな課題です。昨年12月、世界保健機関の「マクロ経済と健康」に関する委員会報告書で指摘された通り、貧困国の経済成長には保健が極めて重要であり、保健分野への投資は健康のみならず貧困削減にかかわるミレニアム開発目標達成のための手段でもあります。
感染症に効果的に取り組んでいくためには、教育、予防、治療、公衆衛生制度の整備、研究開発といった、各国の幅広いニーズに応じて調整されたアプローチを進めることが必要です。また、支援が必要な地域のバランスを考慮した協力も重要です。我が国はこうした考えに立って、「世界エイズ、結核、マラリア対策基金」に引き続き貢献していきます。
(国連改革)
議長、
最後に国連強化の必要性について申し述べます。国連は、21世紀の新たな課題に焦点を当て、より柔軟かつ効果的に行動することが求められています。国連が取り組むべき優先課題は、ミレニアム宣言や各種世界会議を通じて明確になってきています。国連には、そうした優先度の高い課題に合わせて作業計画を策定し、予算を編成し、組織を変革していく責務があります。事務総長が先般発表された国連改革に関する報告書は、そうした努力の方向性を明確に打ち出しています。我が国はアナン事務総長の基本的な姿勢を歓迎し、改革のプロセスにおいて最大限協力していく考えです。
安保理改革は、ミレニアム・サミットで大多数の国の首脳が表明した、国連強化のために特に重要な課題です。先般の事務総長報告書でアナン事務総長が述べているとおり、「国連のいかなる改革も安保理改革なしには完結しません。」私は、この言及により、事務総長が加盟国に対しこの重要な問題の議論の前進を勧告したことを歓迎します。我が国としては、安保理改革に関する議論が10年目を迎えようとしている中で、拡大後の安保理の議席数の問題などに焦点を絞った議論を行うべきだと考えています。我が国は、この点に関し種々努力していく考えであり、今回の報告書を踏まえ、議論にモメンタムが与えられることを期待します。
また日本政府は、ブラヒミ報告を受けてPKO改革が徐々に成果をあげていることを歓迎し、この分野で増強された事務局の能力が効率的、効果的に活用されることを期待します。
議長、
我々はミレニアム宣言に掲げられた目標を単に目標として終わらせないことが重要です。2015年までに貧困や飢餓を半減させ、男女平等の教育を実現させ、エイズの蔓延を抑えなければなりません。そのとき我々は、より平和で繁栄した公正な世界を築き上げることができます。このために途上国も先進国も同様に、それぞれが出来ることに最大限努力していくことが求められています。我が国は、ミレニアム宣言の目標達成へ向けて努力を惜しむことなく国連の活動に貢献していきます。
有り難うございます。
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