今日ここに皆様と共に、鈴木喜美子氏による「足尾-風土円環展」のオープニングに参加できることを嬉しく思います。この度の絵画展の開催おめでとうございます。
鈴木氏が今回描かれている足尾銅山について少し触れたいと思います。19世紀後半以降、足尾をはじめとする鉱山業は日本の近代化の一翼を担いましたが、銅生産に伴って発生する鉱毒が深刻な公害問題を引き起こしました。硫酸ガスを含む精錬所からの排煙が周囲の森林を枯らし、足尾山地を源流とする川(渡良瀬川)を汚染しました。また森林喪失により発生した度重なる洪水は鉱毒物質を含んだ土砂を大量に流し、下流部に生活していた農民から生活の糧を奪いました。
効果的な対応策が採られるまでにしばらく時間を要しましたが、足尾においても1950年代以降自然を回復させ為の本格的な緑化キャンペーンが開始され、現在周囲の山々に緑が戻りつつあります。足尾銅山に象徴されるように日本は近代化の過程で幾多の公害問題を経験しましたが、これら失敗の教訓を経て、後に厳しい環境対策を講じ、経済成長と環境保全の両立に努めました。
鈴木喜美子氏は、20年以上に亘り足尾銅山を描くことを通じ自然破壊について警笛を発し続けてこられました。持続可能な開発は人類が直面する大きな課題の一つです。より良い生活を求め開発を進める一方、環境に気を払わなければ我々の生活自体が危うくなります。鈴木氏の絵画を通じたこの問題に対する取組に敬意を表すると共に、今後のご活躍を期待いたします。ここに展示されている絵画が今回できるだけ多くの人に人間と自然の在り方について考える機会を与えてくれるよう期待します。 |