ステートメント

 

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第69回国連総会における安倍総理大臣一般討論演説
[正本英文・仮訳]
(9月25日[木]・現地)


議長――、人類は、今、かつてない深刻な危機に直面しています。

 

議長――、今こそ、我々は、国連の旗のもと、結束すべきです。共に、この危機に立ち向かおうではありませんか。

 

議長――、日本は、国際社会と手を携えて、大きな責任を果たす決意です。

 

 エボラ出血熱との闘いに、日本政府は能う限りの力を尽くします。アフリカの平和と、安全保障を直接左右するものとしてこの危機をとらえ、国際社会は一致して当たらなくてはなりません。その意味で、我が国は、国連安保理決議2177号が採択されたことを、共同提案国のひとつとして強く支持しています。また日本は、潘基文国連事務総長、ならびにサム・カハンバ・クテサ総会議長のイニシアチブ、エボラ緊急対策のため国連の特別チームをつくろうとする提案を、同様に支持するものです。

 

 アフリカ開発のため昨年開いたTICAD Vにおいて、我が政府は、アフリカにおける健康問題に対処するため5億ドルを準備し、健康・医療に携わる約12万人を対象として、教育プログラムを始めることを明らかにしました。今般、エボラ出血熱の流行に際して、日本は、国際感染症に関する知見、経験の豊富な専門家を、WHOの一員として派遣しました。資金の援助は、総額にして500万ドルに達します。また、医療従事者のため、防護具を約50万着供与します。のみならず、総額で4000万ドルにのぼる追加支援を実施します。

 

 加えて、さらなる人的貢献の可能性も含め、あらゆる施策を講じる準備があります。富山化学工業、富士フイルムが開発し、感染後の治療に効果の見込める候補薬を、提供する準備もあります。

 

 議長、中東地域は動揺のただ中にあります。特に、国境をまたぎ、独自にカギカッコ付「国家」の樹立を宣言するISILの活動を、国際秩序に対する重大な脅威とみなします。いま重要なのは、地域の人道危機へ迅速に対応するのと同時に、過激主義が定着するのを阻止することです。

 

 その一助として、日本は新たに5000万ドルの緊急支援を、直ちに実施します。

 

 議長、ウクライナの安定を重視する日本は、いち早く3月、最大15億ドルの経済支援を表明し、目下実行中です。東部ウクライナ復興のため、新たな支援も準備しています。

 

 議長――、来年私達は、国連発足70周年を寿(ことほ)ぎます。国連が出来た頃、日本は一面の焦土から再起しました。以来片時として、戦争の悲惨を忘れたことはありません。自国、他国を問わず無辜の民に惨禍を及ぼした戦争の暴虐を憎み、平和への誓いを新たにするところから、日本は戦後の歩みを始めました。国連活動への、全面的な献身を自らに課す責務としました。

 

 日本の未来は、既往70年の真っ直ぐな延長上にあります。不戦の誓いこそは、日本の国民が世々代々、受け継いでいく、育てていくものです。

 

 紛争がその居場所を、我々の心と生き方の中から失って初めて、平和は根を下ろします。そのためにこそ、日本は、世界の草の根で働き続けようとしています。

 

 日本とは、これまで、今、この先とも、積極的な平和の推進力である。しかも人の心から「ウォー・カルチャー」をなくそうとし、労を惜しまぬ国であると、まずはそう申し上げ、約束としましょう。

 

 早くも1980年代半ばから、日本はガザで人材育成の協力を始めました。行政官や技術者たちで日本に渡り集中訓練を受けた人の累計は、400人を上回ります。その1人、まだ若い男性ナジャール・オサマ氏は、「ガザには資源が何もない。あるのは人だけで、それは日本も同じだ。自分が日本で学んだのは、決して諦めない精神だ」と語るエネルギー天然資源局の行政官です。

 

 日本で1カ月の教育を受けた後、オサマさんは太陽光発電技術を故郷に持ち帰りました。自立電源が最も必要となる施設に、設備を取り付けます。ガザ地区最大の病院に彼とその仲間が導入した装置は、騒乱を耐え抜き、病院の緊急処置室に、明かりを灯し続けたのです。

 

 ソマリアの挿話がやはり明かりにまつわるものであることは、偶然とは思えません。モガディシュの国内避難民キャンプに暮らす10歳の少女、ハミダ・ハッサンちゃんにとって何より必要なものは、夜のテントを明るくする灯(ともしび)でした。明かりに照らされたテントが、性暴力に対する抑止になるのです。


昼間の陽光で作った電気を貯え夜の灯火に変えるパナソニック製の小さなランタンを、日本はこの2年で2500個、ハミダちゃんら、いとけない少女を含む避難民のテントに配布しました。いまハミダちゃんは、医者になろうと夢を抱き、勉強に励んでいます。

 

 我々は、人の心から不安や恐怖を取り除き、憎しみの芽を摘み取り続けていかねばなりません。そのため日本国と日本国民は、おのれの意欲と能力、知識と経験を、惜しまず差し出し続けます。

 

 まずは、成長の基盤となる教育の充実を、初等教育から職業教育まで、必要とされるところでお手伝いします。目的とするところは、常に同じ、すなわち労働の喜びを、我が物としてもらうことです。働いて流す汗は、未来への投資だと実感してもらいましょう。

 

 伸びる道路や、港、つながっていく電力網は、それらと歩みを一にして改善するガバナンスとあいまって、豊かで平和な、人権が尊ばれる社会をもたらすものなのだと、広範な支持を得たとき、人は、社会の真の意味でのオーナーになります。

 

 こういう社会を点から線へ、線から面へと広げていくところに、日本は平和の基盤を求めてきました。対外援助の思想を託してきました。

 

 我が政府が旗印とする「積極的平和主義」とは実に、長年「人間の安全保障」の増進、すなわち人間を中心に据えた社会の発展に骨身を惜しまなかった我々が獲得した確信と、自信の、おのずからなる発展の上に立つ旗です。

 

 やがてそこから公平・公正で、人間を中心に据えた社会、人権を尊ぶ民主主義がふくよかな稔りを結ぶことを望みつつ、この営みに、日本は邁進してやみません。

 

 70年前、国連は「戦争の惨害から将来の世代を救い」、「寛容を実行する」と謳いました。国連もまた、その理想を失ってはならないのです。

 

 議長ならびに各国代表の皆様――、まさしくこのような決意をもって、国連がその発足70年を祝う明年の選挙で、日本は非常任理事国として、再び安全保障理事会に加わりたいと考えています。

 

 日本は80番目の国として国連に列した1956年以来58年の長きにわたって、国連の大義に自らを捧げて倦むことを知らず、その努力において人後に落ちない国であると確信するものです。節目となるのを機に、我々皆が、志をともにする国々の力をあわせて遂に積年の課題を解き、21世紀の現実に合った姿に国連を改革して、その中で日本は常任理事国となり、ふさわしい役割を担っていきたいと考えています。


皆様――、昨年まさにこの討論において、私は女性に力を与えることの意義と重要性に言及し、「女性が輝く社会を創ろう」と訴えました。

 

 日本はいま女性の社会参加を一気に増やそうと、政府、民間挙げて、山積する課題を解く努力を始めました。

 

 子育てや介護と、仕事の両立が可能となる環境を整備しなくてはなりません。そして、女性の役割についていまだ社会に存在する偏見を取り除いていくことが、何より全ての基本です。

 

 女性の活躍を主題とする大規模な国際会議を、あたかも東京で開いたばかりです。世界から約100人のリーダーが集まって、経済発展や、グローバルな課題の解決に向け、女性の力を存分に発揮させることが不可欠だというコミットメントを世界に向け発信しました。

 

 女性のエンパワーメントは1年を経ずして、我が国政策を内外で牽引する主導理念になりました。

 

 我が国は、対外援助において主眼をなすアフリカで、少女の、また母親の地位向上に注力しています。

 

 20世紀には、ひとたび紛争が起きると、女性の名誉と尊厳が、深く傷つけられた歴史がありました。

 

 女性に生まれたというだけで、医療ケア、教育といった基本的サービスを受けることができない、ゆえに自立の機会に浴せないという忌まわしい状況が、世界のあちこちに、なお存在します。


日本は、世界中のそうした女性たちに寄り沿う国でありたい。心に大きな傷を受けた女性たちの自立を、世界中で応援し、支えていきたいと考えています。

 

 21世紀こそ、女性に対する人権侵害のない世界にしていく。日本は、紛争下での性的暴力をなくすため、国際社会の先頭に立ってリードしていきます。

 

 日本がザイナブ・バングーラ「紛争下の性的暴力担当事務総長特別代表事務所」との連携を強化したゆえんがここにあることは、いまさら多言を要しません。

 

 教育、保健といった基本的な権利は、世界のどこでも保障されなければなりません。女性も男性と平等に学校に行ける、妊産婦の方々が安心して医療ケアを受けられる。――そのために国連は、世界は、一丸となって行動していかねばなりません。


何より経済的に自立する能力を育てることこそは、女性にとって、誇りと希望あふれる生を歩むため不可欠なことではないでしょうか。女性が輝く社会を創ることに、世の中全体を変えるカギがあると信じて疑いません。

 

 昨年、私はこの場の演説で、女性の地位向上を主眼とし、3年で30億ドルを超す支援を実施すると約束しました。これまでの1年間で既に実行した額は、半分以上の18億ドルに上ります。

 

 また私は、「国連の女性政策を担うUN Womenの活動を尊重し、有力貢献国の1つとして誇りある存在になることを目指す」とも申し上げました。日本はこの1年で拠出金を5倍に増やしました。これからも、より多くのプロジェクトを支えていきます。加えて来年は、喜ばしいことに、UN Womenの日本事務所を東京に開きます。新事務所を拠点として、国連との連携は一層強まることでしょう。

 

 議長ならびに各国代表の皆様――、

 

 ポスト2015年開発アジェンダの策定に、日本は今まで同様、強い関与を続けるものですが、その掲げる「包摂性」、「持続可能性」、「強靭性」の達成を真に求めるならば、人種、性別、年齢を問わず、立場の弱い人たちの保護・能力強化こそが大切であると、私は強く訴えます。

 

 あたかも本年、日本は政府開発援助を始めて60周年の節目を迎えました。戦火による完全な荒廃からわずか9年でODAを実施しようとした先人の心意気に学び、私の政府はいま、ODAの新しい指針を打ちたてようとしています。質の高い成長、法の支配の確保、平和で安定した社会の実現などを、改めて我が国ODAの重点目標として強調したいと思っています。

 

 60年、日本がそのODAにおいて営々と目指してきた目標はいささかも変わりません。貧困との戦いにおいて最も重要なのは、当事者に主体意識を涵養し、自助努力を促すことだとする深く根づいた思想は変わるものでなく、人間の安全保障を確かなものとする営みも不変です。しかもなお、女性の力を増すことにテコの支点を求めてこそ、目標到達がそれだけ近づくと考えるのです。

 

 議長とご列席の皆様――、日本は過去20年、延べ9700人を国連PKOの13ミッションに送ってきました。国連平和構築委員会が生まれて今年で10年、その間の日本による平和構築基金への支援は4000万ドルを超えます。今後、平和構築の分野で世界に貢献する人材を、質量とも一層育てていきたいと考えています。


日本はまた、唯一の戦争被爆国として、被爆70周年となる明年のNPT運用検討会議で、議論を主導していく覚悟です。

 

 北朝鮮に対しては、拉致、核、ミサイルといった諸懸案の包括的解決のため、関係国と協調して当たります。

 

 国連の存在によって大きく裨益してきた我が国は、これまで以上に、国連が掲げる理念の実現に向け、力を尽くしていきます。そして日本は、約束したことは、必ず実行する国です。

 

 これで私の討論を終わります。ありがとうございました。

 

 

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